第5話 駒か、動かす者か
偶然だと思っている出来事にも、
たいてい原因があります。
第5話「因果」です。
文化祭誤報事件は収束した。
だが、何かが残っている。
違和感。
「偶然、だと思う?」
昼休み、俺は呟いた。
「思わないでござる」
背後から声。
振り返ると、桃色髪の女子がノートPCを抱えて立っていた。
丸メガネ。少し猫背。だが目は鋭い。
「カウサリス。因果担当」
「また担当か」
「担当でござる」
彼女は机にノートPCを広げる。
「文化祭誤報。匿名投稿。しかしIPは学内」
「生徒の悪ふざけじゃないのか?」
「タイミングが不自然すぎる」
彼女の指が高速で動く。
画面にグラフが並ぶ。
「高潮の直後、低潮に入る瞬間でござる」
俺は思い出す。
あの沈み込み。
「すべての原因には結果があり、すべての結果には原因がある」
彼女の声が少し低くなる。
「万物は法則に従って起こる。偶然とは、認識されていない法則の名にすぎない」
ヴィブラティオが小声で言う。
「出た、難しいやつ」
カウサリスは無視する。
「人は、環境や強い意志や暗示や、外的要因に従って動かされる」
「人生というチェス盤の上で、駒のように」
ポラリスが眉を寄せる。
「じゃあ私たちは駒?」
「意識しなければ、そうでござる」
彼女の目が光る。
「しかし達人は違うでござる」
少し興奮してきた。
「より高い次元に立ち、自らの気分、性格、資質、能力を統御する」
「それを取り巻く環境すら制御するでござる」
ヴィブラティオが肩をすくめる。
「チートじゃん」
「違うでござる」
バン、と机を叩く。
「駒ではなく、動かす者。Moverでござる!」
その瞬間。
教室の空気が張り詰めた。
ドアが静かに開く。
ラセルドゥス。
「動かす者、か」
彼の声は静かだ。
「群衆は流れに従う。
私は流れを読むだけだ」
カウサリスが睨む。
「読むだけではない。置いているでござる」
「高潮のあとに低潮が来ると知り、小石を投げた」
ラセルドゥスは微笑む。
「駒は盤面しか見えない」
一歩前に出る。
「動かす者は、盤全体を見る」
カウサリスが震える。
「ならばあなたは支配者でござる!」
「秩序の設計者だ」
静かな対峙。
俺は二人の間に立つ。
「もし因果が法則なら」
ラセルドゥスの視線が刺さる。
「俺も原因を置けるよな」
一瞬、空気が止まる。
カウサリスが息を飲む。
「可能でござる」
俺は目を閉じる。
怒らない。
焦らない。
煽られない。
その選択自体が“原因”。
空気の流れがわずかに変わる。
ラセルドゥスの計算が、ずれる。
「……ほう」
カウサリスが震える声で言う。
「因果の流れが変化したでござる」
ラセルドゥスは笑う。
「面白い。駒ではないか」
「まだ未熟でござる」
カウサリスが割って入る。
「だが、Moverの素質はあるでござる」
俺はまだわからない。
でも感じる。
振動を上げる。
極を動かす。
律動を読む。
そして。
原因を置く。
ラセルドゥスが背を向ける。
「七つ、揃いつつある」
その言葉が胸に残る。
偶然はない。
見えていない法則があるだけ。
なら。
俺は駒で終わるか。
それとも。
動かす者になるか。
カウサリスが小さく呟く。
「観測し、選択し、原因を置くのでござる」
教室の空気が、静かに張り詰めた。
次の一手は、俺だ。
偶然だと思っている出来事にも、
たいてい原因があります。
第5話「因果」です。




