第4話 揺り戻し
上がり続けるものはありません。
下がり続けるものもありません。
第4話「律動」です。
文化祭準備が始まった。
教室は熱気で満ちている。
「今年は絶対優勝!」
「映像演出入れよう!」
「予算? なんとかなる!」
前進。
前進。
前進。
熱が一方向へ流れていく。
「今、上がりきってる」
ヴィブラティオが笑う。
ポラリスは腕を組んだ。
「振り切れてる」
レスポンサが黒板に小さく線を引く。
上。下。
「流出と流入」
そのとき、緑髪の少女が教室中央へ歩み出る。
リズミア。
「律動は止まらない」
彼女は両手を振り子のように揺らす。
「すべてに“測られた往復運動”がある」
誰も聞いていない。
盛り上がりは止まらない。
「流出。前進。高潮。」
そして、放課後。
材料が届かない。
予算が足りない。
提出書類に不備。
「誰の責任だよ!」
「お前だろ!」
熱は一気に冷え込む。
「ほらね」
ポラリスが呟く。
教室は沈む。
前進の反動。
後退。
高潮のあとに、低潮。
リズミアが机に飛び乗る。
「揺れは敵じゃない」
コツ。
彼女が足で一定のリズムを刻む。
コツ。コツ。
怒鳴り声が少しずつ収まる。
「行きすぎたら戻る。落ちすぎたら上がる」
彼女は両手を大きく振る。
「振り子は片側だけに止まらない」
俺は教室を見渡す。
確かに、さっきの熱は行きすぎていた。
「じゃあ、どうすればいい」
「揺れを知る」
リズミアは微笑む。
「高潮に酔わない。低潮に絶望しない」
そのとき。
俺の視界が、わずかに揺れた。
黒板の線が、波打って見える。
「……見える」
「何が?」
レスポンサ。
「振り子」
教室の空気が、実際に往復している。
上がり、下がる。
呼吸のように。
そして。
その揺れの“端”に、別の波が混ざっている。
不自然なリズム。
一定すぎる。
俺は窓の外を見る。
校舎屋上。
長い影が立っている。
黒髪の男。
ラセルドゥス。
「高潮は操作できる」
彼の声は、誰にも聞こえない。
「人は上げれば上げるほど、落差で崩れる」
スマートフォンに何かを打ち込む。
次の瞬間。
校内掲示板に誤情報が流れる。
“企画中止の可能性あり”
教室が再び揺れる。
「え?」
「マジ?」
低潮。
急降下。
リズミアが息を飲む。
「……外から揺らされてる」
俺の胸が強く脈打つ。
揺れが、速い。
「律動は自然じゃない」
ポラリスが言う。
「誰かが振ってる」
ラセルドゥスは静かに笑う。
「揺り戻しは、破壊を生む」
俺は目を閉じる。
高潮と低潮。
流出と流入。
前進と後退。
往復している。
でも。
往復の“幅”を決める者がいる。
俺は深く息を吸う。
「揺れに飲まれない」
リズミアの言葉が響く。
俺は中央を意識する。
焦らない。
怒らない。
絶望しない。
すると。
揺れの振幅が、わずかに小さくなる。
教室の空気が安定する。
「中止は誤報だ!」
誰かが叫ぶ。
スマホの情報が訂正される。
揺れは収束する。
ラセルドゥスが目を細める。
「……面白い」
彼の視線が、俺を捉える。
「中央に立つ者か」
俺は気づく。
律動は止まらない。
でも、飲まれなければいい。
高潮も低潮も、通過点。
振り子は揺れる。
潮は満ち引きする。
だが。
揺れを観測する者は、飲まれない。
俺の胸の奥で、何かが静かに目を覚ます。
屋上の影が、消える。
七つ。
何かが、揃い始めている。
第4話を読んでいただきありがとうございます。
揺れは自然か、操作か。
次回は「因果」。
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