第3話 好きと嫌いのあいだ
ツンデレ登場回です。
でもたぶん、それだけではありません。
白と黒。
どちらかを選べと言われたら、多くの人は迷わない。
けれど本当に、それは別物なのだろうか。
昼休み。
教室の空気が妙に重かった。
「聞いた? あの子、裏で悪口言ってるらしいよ」
「マジ?」
「最低じゃん」
小さな噂が広がっていく。
昨日の“振動”とは違う。
これは、はっきりとした“色”を持っている。
「極が固定されてる」
静かな声がした。
振り向くと、金髪の少女が立っていた。
屋上にいたあの子だ。
「ポラリス。極性担当」
「担当って流行ってるのか?」
「万物は二重である」
彼女は黒板に一本の線を引いた。
左に「嫌い」。右に「好き」。
「反対は、別物じゃない」
チョークが動く。
線の中央に小さく印をつける。
「度合いが違うだけ」
教室がざわつく。
「いや、好きと嫌いは真逆でしょ?」
「違う」
ポラリスは淡々と言う。
「愛と憎しみも同じ線上にある」
俺は線を見る。
確かに、端と端だ。
「でも、好きか嫌いかははっきりするだろ」
「本当に?」
彼女の目が、まっすぐこちらを見る。
「大と小。硬と柔。黒と白。高と低。正と負。」
「全部、連続してる」
レスポンサが小さく頷く。
「じゃあ今の噂も?」
俺は教室のざわめきを見る。
「嫌いが少しずつ増幅してるだけ」
ポラリスは線の左側をなぞる。
「でも中央もある」
そのとき、噂の中心にいる女子が立ち上がった。
「私、そんなこと言ってない!」
「でもみんな聞いたって」
「証拠は?」
空気が一気に“嫌い”側へ傾く。
「固定される」
ヴィブラティオが小さく言う。
俺は線を見る。
好きと嫌い。
白と黒。
もし、反対が同じものなら。
「どこから嫌いになる?」
俺は聞いた。
「度合いが増えたとき」
ポラリス。
「じゃあ、減らせば?」
一瞬、空気が止まる。
「試す?」
ポラリスが小さく笑う。
彼女はゆっくりと噂の女子の前に立つ。
「あなた、好きだった人いる?」
「え?」
「嫌いになったことある?」
「……ある」
「それ、最初から嫌いだった?」
女子は黙る。
「好きと嫌いのあいだに、何があった?」
教室が静まる。
「……誤解」
小さな声。
ポラリスは黒板の線の中央を指す。
「ここ」
空気が、少しだけ戻る。
「嫌いの度合いを、少し戻す」
彼女の指先が動く。
ざわめきが弱まる。
「なんか……そんな悪い子じゃないかも」
「言い過ぎたかも」
さっきまでの“嫌い”が、揺らぐ。
俺はその様子を見ていた。
「反対物は同一で、ただ度合いが違うだけ」
ポラリスが言う。
「だから移動できる」
そのとき、昨日の不良が教室の入り口に立った。
「おい」
視線が集まる。
嫌いの度合いが一気に上がる。
「また何かする気?」
「怖い」
空気が左端へ振り切れそうになる。
ポラリスが小さく息を吐いた。
「極は、両端にある。でも」
彼女は不良を見る。
「中央もある」
不良は少しだけ視線を逸らした。
「……昨日、悪かった」
教室が凍る。
嫌いの針が、わずかに戻る。
俺は気づく。
好きと嫌いは別物じゃない。
ただ、針の位置が違うだけだ。
「じゃあ俺は今、どっち?」
不良がぼそっと言う。
ポラリスは微笑む。
「中央寄り」
教室に小さな笑いが広がった。
白と黒は、混ざる。
愛と憎しみも、連続している。
なら。
善と悪も、同じ線上にあるのかもしれない。
俺は黒板の線を見つめた。
もし移動できるなら。
俺は、どこに立つ?
不良が帰り際に小声で言う:
「あいつが言ってた通りだ」
(第4話へ続く)
極は移動します。
では、その往復は止められるのでしょうか。
第4話「律動」。




