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お払い箱の聖女は占いで食べていく 〜冷徹な騎士団長が、なぜか毎日来る〜  作者: 丸ノ内きみこ


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08.

レオンが「専属騎士」を自称して居座り始めてから、三日目。

店内の空気は、レオンが放つ過剰なまでの幸福オーラと、ミコトの呆れ混じりの溜息で満ちていた。


しかし、そんな平穏(?)を打ち破るように、店のドアが蹴破らんばかりの勢いで開く。


「――いたぞ! こんな路地裏の怪しげな店に、帝国騎士団の『最高戦力』が引き籠もっているという情報の通りだ!」


現れたのは、レオンに負けず劣らず立派な甲冑を纏った、金髪の生真面目そうな青年騎士だ。彼は血走った目で店内を見渡し、隅っこで簡易椅子に座り書類を捲るレオンを見つけるなり、叫び声を上げた。


「レオン団長! 何をしているんですか、あなたは! 閣下との会談も、新型魔導兵器の視察も、すべて放り出して……っ! 副団長の私の身にもなってください!」


「……カイエンか。騒がしいぞ。ここは神聖な鑑定の場だ。静かにしろ」


レオンは顔を上げることなく、冷淡に言い放つ。

その頭上では、仕事の邪魔をされた不快感からか、ピンク色のオーラにどす黒い棘が混じり始めていた。


「『静かにしろ』ではありません! 団本部では、あなたが何者かに精神操作の呪いをかけられ、拉致されたのではないかと大騒ぎになっているんですよ! ……おい、貴様か! 団長をたぶらかしている不届きな占い師というのは!」


副団長カイエンの矛先がミコトに向く。

ミコトは剥きかけのリンゴを片手に、冷ややかな視線を彼に向けた。


「あの、カイエンさんと言いましたっけ? 落ち着きなさいな。あなたこそ、そんなに怒鳴り散らしてると、背中の『それ』がもっと重くなりますよ」


「はぁ!? 何を訳のわからないことを……」


「あなたの右肩。三日前に演習で怪我をさせた部下の恨みが、べっとり張り付いてるわ。……レオンさん、この人、あなたより霊を引き寄せやすいみたい。相当無理してるわね、精神的に」


ミコトがさらりと指摘すると、カイエンの顔色が劇的に変わる。


「な、なぜ……三日前の演習のことを……。確かに、最近右肩が上がらなくて……くっ、これは呪いなのか!?」


「呪いっていうか、ただの不満の集合体ね。……レオンさん、この人を連れて帰ってくれない? 暑苦しくて、他のお客さんが来られないわ」


「断る。私はここで仕事をすると決めた。カイエン、用件があるならその椅子に座って、ミコトの鑑定を受けろ。それが終わるまで、私はここを動かん」


レオンはあくまで居座る構えだ。

カイエンは混乱し、上司であるレオンと、すべてを見透かしたような瞳のミコトを交互に見て、がっくりと膝をついた。


「……もう、嫌だ……。団長は仕事をしないし、変な女に弱みを握られるし……私は、どうすれば……」


「はいはい、泣かないの。とりあえず、その右肩の『重り』だけは取ってあげるから。……レオンさん、そこにある塩を一掴みちょうだい」


「……これか。いくらでも使え」


レオンが差し出した「一粒銀貨十枚」の高級塩が、カイエンの肩に容赦なくぶちまけられる。


「ぎゃあああ! 目に、目に塩がぁぁ!」と叫ぶカイエン。


しかし、その直後、彼は自分の体が信じられないほど軽くなっていることに気づき、呆然と立ち尽くした。


「……軽い。……団長、この店、本当は……」


「言っただろう。ここは神聖な場所だ。……わかったら、残りの書類をここに持ってこい。一緒に片付ける」


「……は、はい! 喜んで!」


こうして、占いの館の隅っこに、今度は「副団長」までが簡易椅子を並べて座ることになった。

王都の治安を司るトップ二人が、路地裏の小さな店で黙々と事務作業に励む。


「……ちょっと、レオンさん。さっき金髪さんに『団長』って呼ばれてなかった?」


ミコトの問いに、レオンは書類から目を離さず、平然と答える。


「ああ。言っていなかったか。私は帝国騎士団を統括している」


「聞いてないわよ! ……いえ、確かにただの騎士にしては、持ってくる塩の量も、醸し出してる威圧感も、払ってくる報酬の額もおかしいとは思ったわ。どこかのお偉いさんだろうな~とは思っていたけど……まさか騎士団のトップだったなんて」


ミコトは、自分の店で簡易椅子に座り、せっせと事務作業に励む男を改めて見つめた。


「……あななたち、そんなに偉いなら、もっと相応しい場所があるでしょうに。よりによって、追放された『自称・偽聖女』の店に居座るなんて。もしバレたら、私の静かな隠居計画が、文字通り霊障レベルで吹っ飛んじゃうじゃない」


「問題ない。ここを騎士団の重要拠点として公認すれば、誰も文句は言えん。それに、あなたの側以上に安全な場所など、この帝国には存在しないからな」


「……はぁ。自分を信じるのは勝手だけど、私の心臓の強さまで信じないでほしいわね」


ミコトは額を押さえながら、深いため息を吐く。

騎士団長を「憑かれやすい大型犬」扱いしていたこれまでの日々を思い返し、今更ながら少しだけ背筋が寒くなった。……が、目の前のレオンから放たれるオーラは、相変わらず「隠しきれない愛情」を示す眩いピンク色。


「……まあ、いいわ。騎士団長だろうが何だろうが、うちに来る以上は、ただの『手のかかるお客さん』よ。……カイエンさん、あなたも。そんなに驚いた顔をしてないで、その書類の山をさっさと片付けなさい。仕事が終わらないなら、お茶も出さないわよ」


「は、はいっ! 申し訳ありません!」


副団長までをも顎で使うミコトの姿に、レオンは満足げに口角を上げ、再びペンを走らせ始めた。

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