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お払い箱の聖女は占いで食べていく 〜冷徹な騎士団長が、なぜか毎日来る〜  作者: 丸ノ内きみこ


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17.

スパイ事件の解決から数日後。

王都の喧騒が落ち着きを見せ始めた午後のこと、店のドアが静かに、けれどどこか重厚な音を立てて開く。


入ってきたのは、上質な茶色の旅装束に身を包んだ、白髪混じりの紳士。

一見、隠居した裕福な商人といった風体だけれど、その足運びには一切の迷いがなく、何より周囲の空気を支配するような強烈な「黄金色のオーラ」が、ミコトの目を射抜いた。


(……何この人。眩しすぎて、直視できないんだけど)


ミコトが目を細めた瞬間、鑑定室の隅でいつものように書類を捌いていたレオンとカイエンが、弾かれたように立ち上がった。


「――っ! なぜ、ここに……!」


レオンがこれまでにないほど動揺し、跪こうとするのを、老紳士は片手を上げて制した。


「固いことは言いっこなしだ、レオン。今日はただの老いぼれとして、噂の『賢者』に会いに来ただけなのだからな」


「陛下……いえ、大旦那様。……ここは、あなたのような方が来られる場所ではありません」


レオンの言葉に、ミコトは合点がいった。

この「眩しいおじいさん」こそが、帝国を統べる頂点――皇帝陛下その人だ。


「いらっしゃいませ、大旦那様。……レオンさんの上司の方、ですよね? 噂はかねがね。……まあ、お座りください。ルル、最高級の茶葉を出して」


「ほう……。この私が相手でも、物怖じせぬか。気に入ったぞ」


皇帝は愉快そうに笑うと、ミコトの向かいに腰を下ろした。彼はレオンが持ってきた「白銀の岩塩」を一つ指で弾き、目を細める。


「隣国のスパイを、一掴みの塩で見破ったというのは本当のようだな。……ミコトと言ったか。あなたのおかげで、我が国の『牙』であるレオンが、かつてないほど鋭く、かつ穏やかに研ぎ澄まされている。……礼を言わねばなるまい」


「お礼なんて。私はただ、この手のかかる騎士様を、放っておけなかっただけですよ」


ミコトがさらりと言うと、横で控えていたレオンが、耳まで真っ赤にして俯いた。

皇帝はその様子を見て、声を上げて笑った。


「はっはっは! あの『鉄の死神』が、これほどまでに初心な顔を見せるとは。……ミコト、あなたはやはり本物の聖女のようだ。魔法という理屈ではなく、人の魂に直接触れる術を知っている」


皇帝は懐から、小さな黄金のメダルを取り出し、ミコトの前に置いた。


「これは、私が認めた者にしか与えぬ特権だ。これがあれば、帝国全土のどこへ行こうと、あなたの身は私が保証しよう。……レオン、あなたがこの女性に執着する理由、よくわかった。……この者を、生涯かけて守り抜け。さもなくば、私が奪い取ってしまうぞ」


「……御意。死を賭しても、この手を離しはしません」


レオンが、かつてないほど深く、力強い声で答えた。その頭上のオーラは、皇帝への忠誠と、ミコトへの独占欲が入り混じった、激しい黄金とピンクの混色に染まっている。


「……大旦那様、冗談はやめてくださいな。レオンさんのオーラが、眩しくて仕事になりませんから」


ミコトは苦笑しながら、皇帝が差し出したメダルを預かった。

皇帝は満足げに立ち上がり、去り際にミコトの耳元で小さく囁いた。


「ミコト。……もし、あやつが煮え切らぬようであれば、いつでも言いなさい。私が勅命で、強引に婚儀を執り行わせてやろう」


「……遠慮しておきます、陛下」


皇帝が去った後の店内には、幸せすぎて放心状態のレオンと、胃を抑えて蹲るカイエンが残された。

どうやらミコトの「占いの館」は、ついに帝国公認の、最も「手出し不可能な場所」になってしまったようだ。

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