眠たかったら寝てもいい世界にオルゴールを鳴らせ
「貴様あっ! 目が閉じかけとるぞ! まさか眠いのか!? 睡魔に負けそうになるとはけしからん!」
上官の叱責に、ぼくは頑張って目を開けた。でもまぶたが勝手に下がってくる。ぼくが自分のほっぺたをペチペチ叩いていると──
「3時間だ!」
上官が声を荒らげた。
「3時間眠れば充分なのだ! 3時間以上寝たがるたるんだヤツは隊に必要ない! そこの女みたいな顔した坊や! 貴様昨夜は何時間寝た!?」
聞かれてぼくは、即答した。
「はっ! 2時間であります!」
「充分だ」
上官は上からぼくを見下ろし、頷いた。
「全員が交替で寝れば、そのぐらいになる。このサバイバル的状況で一人だけ熟睡しようなどとする者には罰を与えねばならん」
そう言って、チラリと後ろのほうを見る。
上官の背中、天蓋つきのベッドの上では、姫様がすやすやと眠っていた。ぼくたちの殺伐とした空気で起こされないよう、優雅なオルゴールの音が彼女を守っている。
いいなぁ……。
ふわふわの白い布団で寝られて──
ぼくらは固い板のベッドなのに……
ぼくをはじめ、27人の隊員たちが、あからさまな殺意を浮かべて姫様を遠くに見た。
「貴様ら……何を考えている?」
上官が声をさらに厳しくした。
「姫様は特別なのだ。この戦争は、姫様をお守りするためのものなのだ。まさか貴様ら……、姫様に罰を与えるべきだなどとは、よもや思っておらんだろうな?」
知ってる──
上官たちも、一日6時間ぐらい寝てる。
12時間ぐらい眠る姫様ほどじゃないが、四人いる上官たちが、交替で6時間ずつ眠ってる。それぞれにお気に入りのオルゴールの音楽を鳴らして──
ぼくたちは多くて3時間だ。
「敵襲だ!」
斥候をしていた隊員たちが駆けてきて、大声で告げた。
上官が叱る。「こら! あまり大声を出すな! 姫様たちが起きる!」
でもオルゴールの音はそんなにも心地よいのか、姫様はびくりともしなかった。
「いいな」
みんなが口を揃えて言いはじめた。
「いいなぁー」
「オルゴール、いいなぁ」
「貴様ら! 敵が来るぞ! 戦闘配置に……」
上官の言葉なんて無視して、みんなで姫様のベッドのほうへ駆け出した。
みんな顔つきが異常だった。姫様も世界も自分のことさえどうでもいいようなとろけた笑顔で、みんなで姫様のベッドにダイブした。
あぁ……、これが天国というものか。
オルゴールの音が、上官の怒鳴り声も、戦争も、すべてを遮り、ぼくらを眠りに導いてくれる。
あはは……っ。
おやすみ。
そして、さよなら。




