お前悪役令嬢な!!って言われる夢を見たらガチでそうなってるじゃん。ま??
「お前悪役令嬢な!!」
そんなワケのわからん夢を見た後。
目が覚めたら、知らない天井だった。
いや、天井というか、なんか布だ。豪華な刺繍の入った。
ほら天蓋っていうんだっけ。ベッドについてるやつ。あれあれ。
……ま??
慌てて跳ね起き、部屋を見渡すと、なんとも豪華絢爛な部屋だった。
知らん。ここはどこだ!? とキョロキョロすると、首の動きに連動した髪の毛が視界に入ってくる。
素晴らしく艶やかな金髪だった。シャンプーのCMに出れそう!!
って言うのは、一旦隅に置いておいて。
見慣れない金髪に驚き、何が起きたのかと、ひとまず全身を確認するために、鏡の前に立ってみることにした。
……知らない美少女がいた。誰だお前。
あ、アタシか。
顔面偏差値、エベレスト登頂してたわ。誰がどう見ても美少女だ。
これが自分とは全くもって信じがたい。
けれども、何度も鏡を確認してもアタシの顔はコレらしい。
二十年あまり慣れ親しんだ、素朴な顔とは全く違った。
おかしい。昨日はいっぱいご飯食べて、健やかに寝ただけのはずなのに。
起きたら全く知らない人間になっているとか、びっくりを通り越して、無になる。
……まあ。いいか!! なってしまったのは仕方ないっしょ。
アタシのいいところは何事も楽しむ!! なのだ。せっかくなら美少女ライフを楽しもう!!
なんて思えたのは着替える前までだった。
すっごい高そうなドレスを着せられたのはいい。それは!! いいけど!!
めちゃくちゃ重い!! パーカーばっかり着ていたアタシを舐めるなよ!! コートでさえ軽いのにしてたんだぞ!!
そして何よりコルセットがきつかった。
息が……息が吸えないのだ!! 肋骨が悲鳴をあげとるわこんなもん!!
なんだかよくわからないが、アタシはこのままこの重苦しい服を着て生きてかなきゃいけないのだろうか。
しかも朝食がオサレ朝食で、ナイフとフォーク完備でした。やっべ。マナーってどんなだったっけ。
困ったぞ、と思ったその後。記憶はさっぱり無い変わりに、必要な時は勝手に口と身体が動いてくれることに気がついた。
適当に思考放棄してボーッとしてても動いてくれるわけである。
どうにかなりそう!! なんて思ってた時だった。
「リゼットお嬢様、本日は王立学園の入学式ですわね」
アタシに向かって侍女がとんでもない名前を呼びかけた。
リゼット、だと……??
それ、妹が「お姉ちゃん!この悪役令嬢、最高に『ざまぁ』されるから見てて!」って狂ったようにプレイしてた乙女ゲームの悪役令嬢の名前じゃん。
終わったわ。詰んだ。アタシの美少女人生、まさかの初手詰みじゃん。
そういえば夢で「悪役令嬢な!!」って言われたのだったけ。
あんまりだ!!こんなの!!
そんなことを思いながらも、アタシの身体は勝手に準備を始めるのだった。
ってか。学園の制服に着替えるならドレスになる必要あったの?? え、朝食のためなの?? 嘘でしょ、無駄すぎない??
◇
私は、この乙女ゲームの世界で「悪役令嬢リゼット」として生きていかねばならないらしい。
しかも、自分の意思ではない行動盛りだくさんでだ。
はあとため息を吐く。……あ、ため息吐けた。
アタシの意思でも、少しは自由に動けるようだと発見したものの、足は勝手に進んでいた。
そういえば、朝起きた時も自分の意思で鏡が見れたっけ。
全部を強制されるわけでは無さそうだけど、行かんせん今はため息以外の自由は効かなそうだ。
どうやら、今この身体は自分の婚約者の後ろを歩いているらしい。強制的に進む視界には、線の細い男性の後ろ姿が映っていた。
ちなみに、今着ている学園の制服はドレスよりも軽い。……けど、コルセットは健在だ。腹立つ。
しかもヒールである。
なんでこんなヒール履いてんのよ。足首ぶっ壊れるわ。私のコンバース返して。
それでも、慣れたように勝手に身体はカツカツと美しい所作で前に進んでいく。
その時だった。
曲がり角から、茶色い髪の女の子が盛大な勢いでコケてきたのだ。
あ。見たことあるぞこのシーン。
ヒロインとのファーストエンカウント、通称「廊下DEドーン」だ。
来る。来るぞ、アレが!!
私の目の前で、ヒロインが転び、それを私の前を歩いていた王子が受け止めた。
本当にドーンした!! と呑気に考えている内心とは裏腹に、私の意志とは無関係に口が動く。
「無礼者!! 平民の分際で王子になんてことを!!」
おうふ。
言いたくもないセリフが、口から飛び出るのを聞いて、なるほどと理解した。
勝手に動く仕様っていうのは、シナリオを進めるためなのか……。よく出来てるなぁ。
じゃ、無くてだ。
違うよ。無礼者なんて、全く思ってないよ。
そんな私の内心が届くはずもなく、ヒロインちゃんは王子からさっと離れてアタシに頭を下げた。
「ご、ごめんなさい……!!」
ヒロインちゃんがプルプル震えている。
あ、泣いちゃった。ごめんて。今のは不可抗力なの。違うのよ。
そう言いたくても口が動かない。
「待て。お前、彼女がわざとやったとでも??」
アタシに向かって、王子がキッと睨みながら嗜めてきた。
メインヒーローにして、アタシの婚約者、アルフォンス王子である。
顔は良い!! だが前髪が長い。邪魔だ。切れ!!
個人的には、視界が遮られてる男って、なんかこう、信用できないのよね。
とか考えてる間も、私の口が勝手に動いた。
「アルフォンス様……ですが、この者は平民ですのよ!!」
アタシの言葉に、王子サマはさらにコチラを睨んできた。
いや、待て待て。その前にだ。婚約者の名前くらい呼べよ王子サマ。
お前は流石に冷たくない??
こいつ既にアタシのこと嫌いだろ。断罪する前にとっとと婚約破棄申し出てくれよ。頼むよ。
そんなアタシを放置して、王子はヒロインちゃんに「大丈夫かい?」とか言いながら手を差し伸べていた。
「も、申し訳ありませんでした!!」
そう言ってヒロインちゃんは走り去っていく。
王子サマはそれを見送って、もう一度アタシに向かって鋭い視線を送った後、何も言わずに去っていった。
その途端、身体に自由が戻ってきた。
な、なるほど。シナリオさえこなせば、いいわけだ。
ってことは、次のシナリオまでは自由時間なのでは!?
それに気がついたアタシは全力でヒロインちゃんを追いかけた。
ヒールは脱いだ。裸足で走る令嬢は珍しいだろうけど、誰にも合わなかったからセーフだ!!
「あ、いた!! ヒロイン……じゃなかった、マリーちゃん!!」
しばらく走った先で、見つけた後ろ姿。
アタシはヒロインこと、マリーちゃんの手を引いて物陰にダッシュする。
突然のことに目を白黒させているマリーちゃんに、アタシは全力で頭を下げた。
「ごめん!!」
「え?? えっ!? リゼット様……??」
「あの、さっきの悪役みたいなセリフ!! あれ本心じゃないから!!」
「えっと……??」
大困惑してるマリーちゃんは天使のように可愛かった。
さすがヒロイン!!困り顔も絵になるね!!
「なんていうかさ……信じてもらえないかもだけど、聞いてくれる? 」
アタシのそんな言葉に、コクリと頷くマリーちゃん。
何も考えずにここまで来てしまったから、もうヤケだ。適当な理由をでっち上げてでも、本心では無いと知ってもらわなきゃいけない。
「えっと……アタシね、たぶん呪われてんのよ」
「の、呪いですか…!?」
勢いで出た言葉に、マリーちゃんは驚いたみたいだった。
「そ、そうなの!!」
アタシはマリーちゃんの手を握って必死に説明した。
「なんかね、口が勝手に『無礼者!!』とか、言いたくもない意地悪な言葉を言っちゃうの!! まじで!!」
まぁ、呪いでは無いけど、実際そうだし。言いたく無いこと言わされてるし。
「言わないようには、出来ないのですか」
心配そうにウルウルしてるマリーちゃんはアホほど可愛かった。じゃ、なくて。
「えっと、……さっきも我慢しようとしてみたんだけど無理だったから……死なない限り無理……かなぁ??」
「し、死ぬ!?」
アタシの言葉にマリーちゃんは慌て出した。
まずい、選んだ言葉が悪すぎた。
「あ、いや、まあうん。それはとりあえず置いといて、とにかく謝りたかっただけ!! あんなこと思ってないし、あなたは可愛かったよ!! 最高に天使だったよ!!」
必死になりすぎて訳わからないこと言った気がする。
そんなアタシの言葉に、マリーちゃんはポカンとした後、噴き出した。
「あ、あはは!! なんですの、それ!! リゼット様、面白い方だったんですね!!」
あらやだ。この子、好き。
思わずアタシも笑ってしまう。
「まあ、その。今後も定期的にこういう『強制悪役ムーブ』かますと思うけど、全部『あ、今、呪いが発動してんな』って生暖かく見守ってくれると助かる!!」
「ふふっ、わかりました!!『呪い』ですね!!」
こうして、アタシ、悪役令嬢リゼットとヒロイン・マリーの間に、奇妙な友情が芽生えた。
それからというもの、アタシが王子たちの前で強制セリフを吐くたび、マリーちゃんは必死で笑いをこらえているのが見えた。
その度に「マジごめん」「別に、気にしてませんよ!!」
と話しながら、こっそりお茶を飲むのがアタシ達のお決まりになったのだった。
◇
そして、ついに卒業パーティーの夜が来た。
年単位でシナリオは無情にも進み、私はなぜか「マリーを階段から突き落とした」という濡れ衣を着せられていた。
解せぬ。むしろ一緒に転げ落ちて、ドレスがビリッといった私の方が被害者だわ。
マリーは守ったわ!! 少しはシナリオ強制に抗えるようになったんだぞ!! 舐めんなよ!!
「リゼット、貴様の悪行もこれまでだ!!」
アルフォンス王子がビシッと私を指さす。
メインイベント、断罪タイムがついに始まったのだ。
「マリーに対し、数々の嫌がらせを行ったことは知っている!! よって貴様との婚約は、これをもって破棄する!!」
会場が静まり返る中、アタシの体が、勝手に震えだす。膝が、勝手に折れ、口が、最後の仕事を始めた。
「そ、そんな……アルフォンス様!!わたくしはただ、あなた様を愛するあまり……」
はい、乙。お疲れ様でした、アタシ。
アタシの数年の努力で、ある程度のシナリオをこなしたら最後まで到達しなくても、自由に動けるようになったのだ。
ここまでシナリオをこなせば、あとは動ける!!
アタシはスッと立ち上がり、ドレスのほこりをパンパンと払った。
「いやー、自分で自分を褒め称えたいわ。頑張ったわーアタシ」
突然貴族らしく無い言葉を話し出したアタシに、会場がざわめいた。
王子が「は?」とアホみたいな顔をしている。
「いやー、愛するあまりって今言ったっけ?? ないない。天地がひっくり返ってもない」
アタシは大きな声で高らかに宣言した。
「別にあたし、王子サマのこと1ミリも好きじゃないし。こんなことしなくても、婚約破棄ならしてあげたのに」
「なっ……!? ば、馬鹿な……貴様は私を愛しているからこそ、マリーに嫉妬して……」
「してない。断じてしてない。なんなら、隣にいる騎士団長の方がよっぽどタイプだわ」
騎士団長が「ビクッ!?」と肩を揺らした。
王子は完全にテンパっていた。そりゃそうだろう。だって王子には何も言ってないんだもの。
いや、言おうかな?? とは思ったのよ。
でも話しかけようとするたびに無視するしさ?? 説明を書いた手紙も読まれなかったみたいだしさ??
じゃあもう、いいよねってなった訳である。
思いもよらないアタシの言葉に、王子は頭が追いついていない顔をしていた。
「じ、じゃあ……お前は一体、何のためにマリーへ暴言を……」
「それについて説明しようとしたのに、聞く耳持たなかったのはアンタじゃん。マリーには説明してたもの。ねー」
アタシの言葉に、マリーはコクコクと頷いた。
マリーだって王子に説明しようとしてたのにね。「君は天使のように優しいんだな」なんて言葉で耳を貸さなかったのは王子だ。
王子が全部悪い。マリーが天使なのは同意する。
「そ、そうなのか……」
どうやら事実が飲み込めた王子がポツリと呟いた。
やけにすんなりだな……とは、思うものの「王子もシナリオの犠牲者なのでは??」と思いいたる。
それならば仕方ないだろう。
まあ、別に愛してた訳じゃないし、特にアタシは傷ついていないから、ここらで終わりにしよう。
「ま、そう言うことですので!! すれ違いによる喧嘩だったってことで、よろしいんじゃありません??」
別に、王子に痛い目を見て欲しいわけでは無いのだ。
アタシが呑気にそう言うと、王子は血相を変えて言った。
「い、いや。全ては私の目が曇っていたせいなのだろう。すまなかった、なにか望むものはないか。今ならなんでも叶える!!」
なんでも。
まじか。なんでもいいのか……。
きっと王子は自分の失態をそのままにしたく無いんだと思うけど、アタシにとってはどうでもいい。
それでも、望みは、無いことはない。
私は天を仰いで、心の底からの望みを叫んだ。
「ご飯をいっぱい食べたいわ」
「……は?」
アタシの言葉に、王子どころか、その場の全員がポカンとしていた。
いや、だって。だってさ!!
「コルセット気にして全然食べられないんだもの!! この世界の貴族文化どうなってんの!? 乙女の生きる道はこれしかないって言うの!? 入学してから体重3キロ落ちたわ!! 今すぐビュッフェ行きたい!! カロリー気にせずにお腹いっぱい食べたい!!」
シーンと静まり返る会場。
その静寂を破ったのは、私の親友だった。
「あ、あの…!」
マリーが恐る恐る手を挙げた。
「私、家がパン屋で!! パンならいっぱいご馳走できるので……よかったら……」
アタシはマリーの手をガシッと掴んだ。
「食べる!!!!」
その勢いのまま、アタシは王子に向き直った。
「ま、そういうワケなんで婚約破棄、快く承諾!! 慰謝料代わりに、マリーの家のパン、全種類制覇していい?? いいわよね!?」
呆然とする王子と、なぜか顔を赤らめている騎士団長を尻目に、私はマリーと一緒にパーティー会場を後にした。
後のこと??知らない知らない!!
ま、なんとかなるでしょう!!
まずはご飯が優先なのだ
カロリーは正義なのだから!!
皆さんは何パンが好きですか?
私は塩パンが好きです。おすすめの塩パンが聞きたい。




