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【第二章開始】 転生したら戦闘民族だった~スパルタで物理極振りな僕がおっきな猫と征く世界戦場旅行。ついでに五大先史文明も調査検討中~  作者: 四季 訪
平穏

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第33話 平穏の道は枝分かれ。戦乱の道はただ一つ。

 頭を鈍器で殴られたような衝撃が僕を襲う。

 そのせいでエクルットさんの言葉が上手く入ってこない。

 王国への特使の話をしているのだろうが、今の僕はそれどころじゃなかった。


「な、なにを言ってるんですか……どうしてそんな話になるんですか!?」


 僕は声を荒げて彼に詰め寄った。


「僕だって頑張ってます!確かにゴブリンだって殺すのにはまだ抵抗はありますよ。けどそれだってだんだんと慣れてきたところで、前ほど苦しくない!」


 そうだ。

 最初こそゴブリンを殺した時はその血の臭いと手に伝わる感触がいつまでも離れてくれずにいたが、今はそこまでの酷い状態にはならない。

 せいぜい、寝つきが少し悪くなる程度だ。

 最近は悪夢だって見ない。

 それは討伐数にだって現れている。

 前回こそ数は三体だけ留まったが、それまでは平均で四体は倒している。

 他の子に比べたら少ないかもしれないが、それでも村を出て行けと言われるほどの酷い戦果か、と言われると、そんなことはないと胸を張って僕は言える。

 僕は、頑張っていると。


「リオン。確かにお前は努力してる。それは認めるよ」


「なら……」


 子どものように癇癪を起した僕に、エクルットさんは怒ることもなく僕の言葉を受け止めた後、そう言ってくれた。

 だけど、それが僕の願った言葉ではないことくらい、僕にだってわかった。


「だけどな。お前は優しすぎるんだ」


「そんなこと」


 僕の否定しようとする言葉をエクルットさんが首を振ってそれを諭す。

 たったそれだけで、さっきも聞いた同じセリフを僕は否定できなくなってしまった。

 僕だって、自分のこの性格がこの村で浮いていることくらい理解している。

 甘すぎる考えだってくらい僕が一番痛いほどに分かってる。

 それでもこの村に役に立とうと、将来戦場に立つことになるポランくんやヴィリムくんたちの助けに少しでもなれればと───そう言った気持ちで僕はここまでやってきた。

 ユエだって、将来は戦場に立つ。

 僕はあの子を守りたい。

 それになにより、母を悲しませるようなことはしたくない。


「なに泣きそうな顔してんだよ。俺は褒めてやってんだぞ」


 エクルットさんが苦笑していた。

 だけど、素直に誉め言葉として受け取れるはずもない。

 事実、僕は殺すことをずっと恐れてる。

 それは多分、これからも慣れることがないことだとも。


「リオン。お前は自分のその性格が“甘い”ものだって思ってんだろ」


「……はい」


 戦場に於いて甘さは命取りだ。

 自分の死だけで済めばいいが、最悪誰かを道連れにしかねない。

 そんなことは分かってる。

 それでも僕はそれを克服して、この村で胸を張れる戦士になろうと努力を続けてる。

 そうすれば、仲間も、ユエも、母も、全てが守れる。

 兄姉から受け継いだこの命を、無駄にせずに済む。

 そう本気で思っているからだ。


「確かにお前のその性格は戦場ではお荷物になりかねないだろうな。はっきり言って適正0だ」


「ッ……」


 歯に衣着せぬその物言いに僕は反発してみせることもできなかった。


「だがな、リオン。お前のその性格はこの村じゃない、外の世界でこそ光る」


「外……」


「そうだ。この村の外も所々で争いはあるが、この“冬の大地”ほど戦ってばかりじゃない。正直言ってこの村がおかしいんだ」


 冬の大地の覇権を巡る戦争は、ずっと昔から続いている。

 その戦いに身を乗り出してきたこの村の住人は、何十世代にもかけてこの土地を守ってきた。

 その過程には当然適者生存の法則が働き、その結果今のこの村がある。

 だから僕のような異端がいる。


「本来はな、お前のような奴は周りから愛される存在であるべきなんだ。そう言う奴らがいるから、《《平和を望む世界でいられる》》」


 エクルットさんの言っていることは今の僕には少し難しかった。

 だけど、言ってくれているその意味と想いは伝わってきた。


「お前は戦争になんか参加しなくていい。お前は外の世界で平穏に生きろ。その方がきっとお前の周りの人間も幸せでいられるはずだ」


「でも……」


「特使になれば、王国の宮廷で過ごせるようになるんだぞ。こことは生活の水準がまるで違う。王国はここから南方に離れているから暖かくて寒さに凍えなくて済むし、厳しい訓練も晴れて免除だ。それに……食うにも困らない」


 王国の援助があるからこその今の食糧事情は成り立っている。

 もし何かがあればこの村はすぐにまた、貧困に喘ぐことになるかもしれない。


「なんだ、責任重大だって心配してんか?安心しろ、あっちには俺たち“グラント族”の血を自国に取り入れる思惑があるからな。お前があっちでどっかのお嬢さんをひっかければそう簡単に打ち切られたりしねーさ。羨ましい限りじゃねーか!」


 エクルットさんは酒の席のように明るく振る舞い、僕の背中を叩く。

 僕を上手いこと乗せようとしているのが、バレバレだった。


「……俺はな、リオン。お前が心配なんだよ」


 それでも表情の優れないままでいる僕を見て、エクルットさんが態度を改めた。

 効果がないと分かったのか、すぐにまた真摯な態度へと変えると、少し困ったかのような顔で彼は僕の顔を真っすぐに見た。


「お前は昔の俺で、昔の俺よりもずっと優しい。全部背負おうとする大馬鹿だ」


「さっきからずっとそう言ってくれるのはありがたいですけど、僕は別に優しくなんかありません」


 ただ甘いだけ。

 僕が傷つきたくないから、殺すこともできないんだ。

 ただの保身だ。


 本音を口にすると、エクルットさんが呆れたように溜息を吐いた。


「ゴブリン退治すら厭うくせに友達のためにここまでする奴がなに言ってんだ」


「と、友達……」


 ヴィリムくんが聞いたら怒りそうだ。

 僕は複雑な気持ちになるが、エクルットさんはお構いなしだった。


「山狩りの度にお前が、周りの他の奴ができるだけ傷を負わないように一歩引いたところから援護していることも、俺は知ってるぞ」


「う……そ、それは」


 ──ただ戦いたくないだけ。

 そう言い返そうとするよりも前にエクルットさんは続ける。

 言い返させるつもりがないようだ。


「それにお前はユエちゃんを助けた。自分の身も振り返らずにな」


「……」


 当時のことを言われると何も言い返せない。

 だけど僕は子どもが死ぬべきではないと、そう強く思っただけだ。

 これは、僕のエゴだ。


「そしてその聖獣の子どもすらも自分の懐に抱きこんでよ」


 何かを言い返そうと口を開いたが、吹き抜けた冷たい風のせいで僕は口ごもる。


「幸か不幸か、お前には戦いの才能がある。攻撃的センスはあれだが、誰かを守る力は既に十分だ。お前は王国で生活の基盤を築いて、そこで冒険者にでも就け。それが嫌でもまだまだ道は残ってる。逆にここに居続けたら、お前に待っているのは戦争への血濡れた道だけだ」


 エクルットさんの示した未来絵図に、僕の心がどうしても揺り動かされてしまう。

 ここじゃないどこかで、誰も殺さずに済む世界。

 魔物すらも殺すのが嫌だと逃げても、まだ道があると彼は示してくれた。

 僕はその未来を強く望んでしまった。

 心が、追い求めてしまう。


 誰かに囲まれて笑う僕へと続く道に手を伸ばし、ふと僕は隣の道を見る。

 そこには死体の転がるその先に、表情の消え去った僕が立っていた。


「ぁ……」


「俺から言えるのはこのくらいだ。後はお前が選べ」


「ずるいですよ……」


 喉の渇き切った人の前に瑞々しい果実を差出しておいて。


 僕はここじゃないどこかで幸せに過ごす自分の姿を思い描いていた。

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