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【第二章開始】 転生したら戦闘民族だった~スパルタで物理極振りな僕がおっきな猫と征く世界戦場旅行。ついでに五大先史文明も調査検討中~  作者: 四季 訪
平穏

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第27話 模擬戦──VSヴィリム

 まだ明るい陽に瞼を照らされ、その眩しさに意識が浮上した。

 陽が高くても、最近はどんと寒くなった。

 そんな、冬が近くなったこの季節。

 いくら日中とは言え、外で眠るには肌寒くて敵わない。

 生まれ直してこの方風邪を引いたことはないが、それでも少し心配になる外気温だ。

 しかし、僕の体はほんのりとなにかに温められていた。

 膝上と肩口から半身にぴったりとくっつく温もりがなんとも心地いい。

 思わず微睡の中に再び沈みそうになるのを堪えて、僕は瞼を開くと、同時にすっと横からその温もりが消えた。

 僕はそれが少し残念で。

 膝上に残るこれだけは───そう感じて僕はそれを両手で抱えた。

 それはふわふわとしていて、とても触り心地がいい。

 形を探るようにそのまーるいなにかを撫で回していると、指に鋭い痛みが走った。


「いたっ」


 びっくりして瞼をかっぴらくと、そこにはアザレアがもぞもぞと僕の膝の上で体を丸め始めていた。

 ふかふかのお腹に顔を埋めるアザレアを見て、血が滲んだ指を唇に運んだ。


「おはよ。リオン」


「おはよ。ユエ」


 横にピッタリとくっ付いていたあの温もりはなんとなく、ユエなのだろうとは思っていた。

 樹に凭れ掛かった僕の顔を、ユエがいつもの無表情が覗き込み、僕の目覚めを迎えてくれた。


「なんダか、僕が目を覚ますといつもユエが傍にいてくれてる気がするよ」


 特にボコられた日は。


「リオンは真昼間から気絶してばかりだから」


 捉えようによっては朝チュンみたいでいかがわしいな。

 僕は自分の失言に気付いたが、ユエが真っ向から躱してくれた。

 幼女相手の発言は気を付けよう。


 エクルットさんと模擬戦をしていた場所のすぐ傍にある樹に、凭れ掛かるように寝かされていたらしい。

 そう言えばどのくらい寝てたのだろう。


「三時間くらい」


 そうか。

 道理でみんなへとへとなわけだ。

 僕自身の感覚としては一瞬だったわけだが、丁度合同訓練が終わったところのようだ。


 あれ?今僕口に出してたっけ?

 ユエの顔を見る。


「?、別に心とか読んでないよ」


 首を傾げて答える無表情のユエに、僕の心に俄かに恐怖心が沸き立った。

 あんなことやこんなことを考えていたのがバレてしまっているということだろうか。

 僕がロリコンではなく紳士だということも伝わっていてくれ。


「リオンの表情が分かりやすいだけ」


 え?表情?


 僕の疑問にユエがこくりと頷いた。


 よかったー。ユエに人の心を読む力とかはないんだね。

 安心したよ。

 中身が異世界の人間だと知られたらどうしようかと思ったよ。


「すっごい安心した顔。リオンはほんとに分かりやすい」


 小さな手を口に当ててくすりと笑うユエ。

 小さい頃から表情の乏しい彼女だが、最近はその表情にも時折色彩が宿る。

 たまに見せてくれる笑顔なんてのは、正に天使のようだ。

 あの時、彼女が傷つくようなことがなくてよかった。

 僕はユエの見せた子どもらしい笑顔に、満面の笑みで返した。


 その時、アザレアが僕の膝の上で伸びをして起き上がる。

 お昼寝に満足したようだ。


 僕はアザレアを抱いて立ち上がる。

 訓練終わりで地面に倒れ伏す子どもたちには申し訳ないが、僕はここらで一旦帰らせてもらおう。

 

「おい」


 踵を返そうとした時、汗だくのヴィリムくんが僕に話しかけてきた。

 その手には木剣が握られている。

 木製とはいえ、切っ先を人に向けるのはどうだろう。


「おまえまだ体力は残ってるだろ。俺と打ち合えよ」


 嫌だなぁ。

 エクルットさんとの模擬戦で僕は思った以上に消耗している。

 本当にギリギリの戦いっていうのは、肉体よりも精神的な消耗の方が大きいのだ。

 特に過度な集中というものは。


 僕は今からハウルたちの所に行って癒されたいんだけど。

 アザレアだってあの子たちと一緒に遊ばせてあげたいし。

 今日の所は悪いけどお断りだ。


「……」


「おい」


 しかしヴィリムくんに引く気はないらしい。

 僕に断られてもなお、ヴィリムくんは僕から矛先を下ろさない。

 聞き分けのない子だ。

 真面目なのはいいが、相手のことも考えるべきだと僕は思う。


「……」


「おい!聞いてんのか!なんとか言えよ!」


「あっ……」


 喋るのを忘れてた。

 言葉に出さずともなぜか会話がさっきまで成立していた弊害だ。


「リオンって……ばか」


 僕の失態の理由を察したユエが無表情のまま僕を罵った。

 呆れているのが見てわかる。


「ご、ごめん。喋るの忘れてタよ」


「しゃ、喋るの忘れてたってどういうことだよ」


 心底驚かれた。

 二、三言嫌味っぽいこと言われると思ったが、ヴィリムくんは開きかけた口を閉ざしてぐっと堪えて見せた。

 馬鹿にしたつもりじゃないんだ。許してほしい。


「ま、まぁいいさ。それより早く俺とやれよ。剣を取れ」


 そう言いながらちらちらと僕の横の人物の様子を窺うヴィリムくん。

 ははーん。

 もしかして、ユエにカッコいい所をみせたいんだな~。

 今日の訓練工程は終わったというのに、どうして急に勝負を持ち掛けて来たのか。

 彼の思惑に気付いて僕はほくそ笑む。

 彼に花を持たせてもいいと考え、その提案受け入れた。



 僕に攻めの手は少ない。

 本気でいいのなら、肉体強化による強引な突破も可能だが、それは戦技とは程遠い。

 もし肉体強化に頼った戦い方に慣れてしまえば、同じ肉体強度の持ち主を相手に、または突出した技量の達人を相手にした時、あっさりと敗北を喫してしまう。

 力だけではダメ。

 強さというのは「技×力×心」なのだ。

 そして最も時を要し、心血を捧げる必要のある三大要素のひとつが、“技”に当たる。

 だから僕たちは技術を幼少からこれでもかと叩きこまれるのだ。


 そしてその“技”に於いて、ひとつ上の世代の子どもたちの中で今最も総合的に優れているのが彼、ヴィリムくんだった。

 攻撃・防御・機動。

 どの項目も非常に高水準だ。


 つまり、僕が何を言いたいかと言えば─────


「ッ─────」


「いつも守ってばかりいやがって……だけど今日は思い通りにいくと思うなよ!」


 ヴィリムくんが下手な手加減を許してくれるほど生ぬるい相手ではなかったということだ。

 彼の攻撃のキレは以前より増している。

 本気を装ってわざと手を抜いて負ければ違和感を与えかねない。

 彼の観察眼だって決して節穴ではないのだ。


 僕はヴィリムくんの絶え間ない連続攻撃をかろうじて捌いていく。

 足運びと剣の動きは最小限に。

 そして視線は周辺視野を意識してややぼんやりとヴィリムくんを捉える。

 これで彼の全体の動きは常に僕の手のひらの内だ。

 彼の全身から見て取れる怪しい起こりが僕に危険を知らせてくれる。

 その一挙手一投足を見逃してはならない。

 見落とせば、その時点で僕の守りは破綻する。


「この間よりも手応えがないぞ!」


 ヴィリムくんの動きは明らかに良くなっていた。

 打ち込みも力強くなっている。

 耳元で防いだ時の音が明らかに以前と違う。

 耳が痛いほどだ。

 あの時のエクルットさんが彼にいい影響を与えたのか、その苛烈な攻めに稚拙さを感じさせてくれずにいる。

 少し異常だ。

 子どもの成長は早いとはいえ、これは少し無理がある。

 僕はヴィリムくんの目の下の隈を見て、少し心配になった。


 とはいえ、実際に腕が上がっているのは事実。

 このままではまたじり貧で引き分けになる。

 わざと負けようかとも思っていたが、それも難しい。


 相手の木剣が鋭く僕の守りを叩く。

 手首に響くが許容範囲内だ。

 そして予想の内にある、彼の次の動きに備えようとした時、僕の脳裏に気絶する前のエクルットさんの動きが過った。

 僕は無意識の内に、次の一手を変える。


「崩れた─────!?」


 ワンテンポ遅れた僕の防御をヴィリムくんの目が鋭く捉えた。

 そして晒されたその隙を逃がす事なく、その実直な剣撃が疾く放たれる。

 僕の剣は間に合わないまま、軌道を変える。

 真横から迫る彼の木剣。

 狙いは首。

 僕は《《予想通り》》の結果に最適解を導き出す。

 一歩引く。

 たったそれだけで剣先が僕の喉元をスレスレで過ぎ去った。

 そして軌道を変えていた僕の木剣は防御からすかさず反転。

 それは無意識の内に下からの突きへと姿を変え、相手へと牙を剥く。


「なっ!?」


 驚きに目を丸くしたヴィリムくんの喉元に僕の木剣が突きつけられていた。


「あ」


 やってしまった。

 僕は尻餅をついて悔しそうに地面の土を握るヴィリムくんを見てそう思った。


 無意識の内にエクルットさんが僕に見せた「フェイント」という技を思い出し、それを試してしまった。

 集中すると考えるよりも早く体が動いてしまうが、これはそれの弊害かもしれない。


「えっと……ヴィリムく───」


「ヴィリム!!」


 僕がヴィリムくんに何を言おうかと考えている矢先、男の怒鳴り声が訓練場に響き渡った。

 そこには今朝、僕の母と玄関で話していたヴィリムくんのお父さんが険しい顔で立っていた。

 

 

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