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【第二章開始】 転生したら戦闘民族だった~スパルタで物理極振りな僕がおっきな猫と征く世界戦場旅行。ついでに五大先史文明も調査検討中~  作者: 四季 訪
継いだ命

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第18話 いのち

 落ちてきた穴から注ぐ光だけが光源であるこの洞窟は酷く暗い。

 それでも今の僕の目は、しっかりとその白虎の体を暗闇の中でも捉えている。

 見たから分かる。

 圧倒的なその魔力の量と密度が。

 僕とユエの魔力を合わせても足元にも及ばないだろうその魔力に圧倒される。

 神々しいまでの質もあって、自分たちと比べるのもどこか烏滸がましく感じてしまう。


「リオン」


 ユエが僕に声を掛ける。


「ユエは自分の治療に専念しテ!」


「私も戦う」


 その言葉に僕は目を丸くした。


 ユエの魔力が僕へと手の様に伸びると、僕の中の魔力にそっと触れる。

 僕はその光景にびっくりして体を固くしたが、ふっと体か軽くなったことに気付く。


「リオンの体に干渉して強化した」


 凄い。

 僕の全力の自己強化と同程度の強化が外部から加わった。

 これでさらに倍だ。


 白虎がユエの動きを不快に思ったか、僕から視線を切ってユエへと向く。


「こっチダ!」


 僕は今まで経験したことのない肉体の強化具合に驚きながらもなんとか、剣を白虎に叩きつけることに成功した。


「ッ……かっタ!」


 しかし、白虎の体を傷つける事はできなかった。

 じぃん、と伝わる手の振動に、僕は銅像でも殴ったのかと錯覚するほどの痺れに襲われる。


「これデも通用しないのか……!」


 今の僕の肉体能力は常人離れした動きと力を可能にしている。

 あの時の毛むくじゃらだって、多分素手でも勝てるはずだ。

 父とだってやり合えるかもしれない。


 だというのに、僕の振るった剣は白虎の体を傷つけることすらできなかった。

 せいぜい、毛の何本かがはらはらと落ちたくらいのものだ。


「今」


 ユエの伸ばした魔力の手が白虎に触れた。

 全身を巡る魔力の流れ、その妙にムラの大きい部分。

 ユエのその干渉系魔術が、魔力の薄い箇所に触れる。


 すると白虎はまるで自分の体が重たくなったかのように膝を沈め、体高が縮む。

 重力系?いや、デバフだと考えれば筋力低下とかその類のものだろう。


「抵抗が弱い。このまま色んな手で弱化を掛けてみる」


 頼もしいユエの言葉だが、言っていることは結構エグめだった。


 動きの鈍くなった白虎に飛び掛かる。

 試みるは高い所から重力と腕力にものを言わせた力任せの大上段。

 ちょこまかと攻撃を仕掛けても傷ひとつ付けられないのだから、特大の一撃を狙うしか勝つ見込みはない。

 ユエのデバフが効いている今のうちがチャンスだ。

 首筋目掛けて僕は渾身の一撃を放った。


「……!」


 手応えはあった。

 傷は深くはないが、その汚れひとつなかった純白の毛並みを、奴自身の赤い血で濡らすことに成功した。


 攻撃が通ったことで勝てる見込みが出てきた事に思わず笑みを浮かべた。

 白虎が見せる、僅か程度に弱めた魔力の光が、僕には希望の光にも見えた。


「リオン、避けて!」


 ユエの言葉の意味に遅れて気付いた。

 白虎の口の周りに魔力が集中していることに。


「ファンタジーダっテこト忘れテタ」


 僕は白虎の開かれた口の指し示す死の軌道から逃れるべく、地面を全力で蹴った。

 自分から壁に激突するほどの脚力で飛び退いたが、それは正解だったようだ。


 僕は微かに氷ついた自分の左腕を見る。

 どうやらこれでも本当にギリギリだったようだ。

 凍傷になる前に僕はその氷を柄で砕いた。

 一瞬、それもほんの小さな氷だというのに、砕いた所の肉が氷と一緒にぼろっと落ちてしまった。


「……もろに食らえば一撃必殺じゃん」


 絶対零度かよ、と僕は内心でだらだらと汗を流した。

 しかも肉が落ちたところがくっそ痛いんですけど。

 傷口から血がだらだらと流れ出している。

 頬が引き攣った。


 しかし、今は傷にかまけている余裕はない。

 白虎の瞳孔の開いた目がこちらを捉えて離さない。

 ユエには見向きもしていない。

 好都合だ。


 僕は飛び出し、繰り出される大きな爪を掻い潜る。

 そうして近づいた白虎に向かい、また剣を振るう。

 大上段からの攻撃は確かに効いたが、やはりそれ以外の攻撃はあの分厚い毛皮に阻まれてしまう。

 ユエは自分の回復を後回しにして、僕の方へと魔力の手を伸ばし、治療を始める。

 僕の感情で言えば、ユエには自分を真っ先に治して逃げてもらいたいが、彼女なくしてこの戦いには恐らく勝てない。


 ユエからのバフが切れた時点で、僕は打つ手をなくしてしまう。

 そこを理解し、自分が狙われていないことを踏まえた上で、ユエは僕の治療を優先してくれている。

 なんて状況判断能力だろうか。

 後方支援担当だろうに、腐ってもあの蛮族の生まれというところか。


 僕は心強い仲間の存在に気持ちを高ぶらせる。

 白虎の攻撃を掻い潜り続ける僕は、彼女に背中を押されるような気持ちになり、果敢に攻撃を仕掛けた。

 集中的に同じ個所を狙い、突破口作りを試みる。

 首の傷は位置が高いうえに、警戒されているために今の状態では狙うのが難しいからだ。


 互いに傷が増えていく。

 そうして互角の戦いを演じる中、白虎の動きが緩慢になっていくのが分かった。

 体を覆っていた妙な硬さも、白虎から失われつつあることを、戦いの中で僕は感じていた。


 しかし満身創痍なのはこちらも同じ。

 僕は全身から血を流し、ユエも魔力の使い過ぎのせいか、肩で息をしている。

 互いの体力はそう多く残っていない。


 白虎がこちらをじっと見ている。

 戦いの最中でも、頻繁に見せるあの様子に僕は疑問を抱いていた。

 最初は余裕の表れか、とも考えていたが、今ではそれも違うように思える。


 開きの大きくなった瞳孔が僕をじっと見る。

 それはまるでこちらを値踏みしているような、そんな目だった。


 しかし積極的に攻撃してこないならそれはそれで好都合だ。


 僕は限界まで魔力を全身に回していく。

 魔力の回転速度を上げ、供給量を増やす。

 その無茶な肉体強化は、まるで摩擦熱のように再び全身を熱した。

 熱い。

 白虎のブレスによって温度を下げたこの洞窟の中では、僕の熱い吐息が嫌に目立った。


 僕は剣を構える。

 もう一度、あの首を狙うため力を蓄えた。


「まって、リオンっ。その獣、ちょっと様子がおかしいの」


 僕はユエのその言葉に同意するも、止まるつもりはない。


「まるで、殺されるのを待っているような─────!」


「ユエ!」


 ユエが何かを言い切る前に、突如としてユエの周りに氷柱が現れた。

 それは宙でユエに狙いを定めたかのように、先の鋭い部分を突き付けながら漂っていた。

 まるでそれ以上喋らせないとでも言うようなタイミングだった。


 突然の超常現象染みた白虎の攻撃に僕は、これでもまだ今まで手加減されていたのだと悟る。

 そして白虎が挑発するような目を僕に向けた。


 それは僕に──来い、とでも言っているかのようだった。

 白虎がどういうつもりで手加減していたのか、どうしてこのタイミングで人質を取るような真似をしたのか、その行為の意味を考えあぐねていると、一本の氷柱がユエの頬を掠めた。


「おまえ!」


 やはり、あれは保身のための攻撃ではない。

 自分を殺せなければユエを殺すという、奴からの挑戦状だった。


「いいよ。乗っテやる!」


 僕は白虎に向けて飛び上がり、剣を振るう。

 奴はなにもしてこない。

 ただ、氷の障壁を頭上に張って、僕の攻撃を凌いでみせた。


 僕を見る奴の目が、まるで不満気だった。


「キャッ」


 後ろからユエの悲鳴が聞こえた。

 その声に歯を食いしばる。

 僕は氷の障壁を蹴り上げ、再度跳躍。


 ユエを殺させはしない。

 これ以上彼女を傷つけさせない。


 僕は奴の眉間を守る氷に剣を突き立てた。

 高さと体重、そして二重のバフの乗った鋭い突き。

 氷の表層を剣が削り、ダイヤモンドダストのように周囲に舞う。

 しかし、それでも僕の攻撃はそれを突き破ることができなかった。


「くっそぉぉぉお」


 白虎の目が僕の後ろのユエを見た。

 その暗い目に、ユエの姿が微かに映る。

 奴のその目に、僕はユエの怯える姿を見た。

 そしてそれは、僕にユエの死に様を幻視させた。


「おまえぇぇぇぇぇええええええ!!」


 このままではユエが殺される。

 僕はそう感じ、ありったけの力を剣に乗せた。


「くそぉぉぉおおお」


 それでも届かない。

 圧倒的な力の差を前に、僕の剣は無力だった。


 ──────────


 なにか頭の中で声が聞こえた気がした。

 直後、僕の腕が剣と一つになるような感覚が走る。

 一直線に並んだ剣と僕の体。

 一寸のずれもない突きの型は、僕の知らない技の域に達していた。


 氷が遂に音を立てて砕けた。

 驚愕するような白虎の目。

 

 無我夢中で出した突きの妙技は、氷を破ってその役目を終える。

 僕は剣を逆手に握り、落下の勢いのまま首に狙いを定めた。

 弱点となっている首の傷。

 僕はその一点に狙いを定める中、あの毛むくじゃらを刺し殺した時の感覚が蘇った。


 生き物を殺す、あの感触。

 命が零れていく臭いと温度。

 縋るような、あの目。


 どくん、と心臓が跳ねる。


 僕は、覚悟を決めた。


「ああぁぁぁあああああああ!!」

 

 傷口に剣を刺し込む瞬間、白虎の目が笑ったような気がした。

 ズサリ。

 鈍い音を立てて、肉が裂けていく。

 固い頸椎を砕く感覚は、初めてだった。


 もう、ほとんど光のない白虎の目が僕を見る。

 瞳孔の開ききった目で立ったまま。


 僕の攻撃が本当に通用したのかも怪しく感じるほどに、白虎は泰然とした姿で立っていた。

 優美で荘厳な立ち姿に、僕は思わず息を呑む。

 僕を見る顔を上に上げ、天井を眺めると、遂に白虎は力なくその場に崩れ落ちた。

 体が浮きそうなほどの振動が洞窟を揺らした。


「リオン……!」


 ユエが僕に足を引き摺りながら駆け寄ってくる。


 良かった。

 生きていてくれた。

 守れたんだ。


 ユエが僕を必死に治療しようと藻掻いているが、もう彼女の体から魔力を殆ど感じない。

 これでは僕の治療も厳しいだろう。


「ユエ。僕は大丈夫だから、大人の人を呼んできてよ」


 ユエは歯を食いしばる姿を見せると、しばらくして頷いてくれた。


「すぐ戻ってくるから……死なないで」


「大袈裟だなぁ」


 僕の容体は言うほど悪くない。

 強いて言うなら魔力熱のせいで少しぼーっとする程度だ。

 怪我も魔力残量もそう大したことはない。


 僕は穴を必死によじ登るユエを見ながら、ある種の達成感と酷い嫌悪感に心の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。


 殺しちゃったな。

 仕方が無いとは言え、今度は自分のしっかりとした意思で殺すと決めて殺した。

 恐怖心に駆られていたあの時とはまるで違う。


 僕は重たい体を起こそうとした時、隣から大きなものを引き摺る音が聞こえて目を丸くした。


「マジかよ」


 白虎が、その体を引きずりながら奥へと移動を始めていたのだ。


 しぶとすぎる。


 僕は今度こそ止めを刺そうと立ち上がった時、奥から何かの、か細い声が聞こえてきた。


─────ミィ、ミィ


「え」


 僕は重たい体に鞭を打って声の方へと駆ける。


 白虎が動きを止めた場所。

 体を丸め、抱くようにして抱えたその小さな命。


 小さな白虎が親の腕の中で鳴いていた。

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