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【第二章開始】 転生したら戦闘民族だった~スパルタで物理極振りな僕がおっきな猫と征く世界戦場旅行。ついでに五大先史文明も調査検討中~  作者: 四季 訪
継いだ命

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第17話 獣の塒

 ユエは暗い穴の底で目を覚ました。

 穴から覗く日差しが弱い。

 陽の傾き具合から、そこそこ時間がたっているようだ。

 一時間弱といったところだろう、とユエは冷静に考えた。


 穴を見上げて、そう深くないことに内心で誰かに感謝を告げた。

 ユエはこれでもこの村の子どもだ。

 最低限の訓練は受けている。

 受け身だってリオンほどではないが上手くこなせる自信だってある。

 しかし、それでも五体満足とはいかなかった。


「いたっ」


 立ち上がろうとして、足を挫いていることにユエは気付いた。

 それと同時にこの洞穴の寒さに全身の肌が粟だった。

 寒さに強いユエは、これが単なる寒さからくるものではないと感じた。

 それがなんなのか、答えはすぐだった。


───グルルルルゥ


 何か大きな振動音のような重たい音が暗い洞窟に反響した。

 ユエはそれが獣の類のものだとすぐに悟る。

 すぐに逃げようと立ち上がるが、捻挫のせいでまた転んでしまった。


「逃げないと」


 ユエの焦りが大きくなる。

 それは奥から何かが近づいてくる音がユエの耳まで届いたからだ。

 四足のなにか。

 それは姿より先に、魔力の妖しい光をユエの前に見せた。


 非常に大きな魔力の塊。

 人間が持つ形質とは根本から違う、畏怖を抱いてしまうほどに強大な何か。

 大自然を思わせるような、人間とは遠い存在の持つ魔力にユエは体をガクガクと震わせた。


 そして影からそいつは現れた。

 暗闇から覗く二つの眼光がユエを真っすぐに捉え、暗闇から姿を見せる。

 ユエは見たこともないその獣の姿に神秘的な情を抱いて、思わず固まった。


 雪のように真っ白な逆立つ獣毛。

 ユエの胴よりもなお太い立派な四肢。

 大きな手には鋭い爪を持ち、そして今、影から牙が浮かび上がった。

 縦に割れた瞳孔を大きく広げ、その獣はユエに向かってその大きな口を開き─────咆哮を上げた。


 天井の石がばらばらと崩れ落ちるほどの大咆哮。

 周りを覆われたこの洞窟の中では、肌がビリビリと痛むほどに、その咆哮は恐ろしいまでに響き渡った。


 ユエは生まれて初めて、死というものを目前にした。

 その爪に引き裂かれるだけで、その牙を突き立てられるだけで、自分は驚くほど呆気なく、生をこの暗闇の中で散らすことになるのだろう。


 考えるまでもなく、最期を感じたユエは、無意識の中、震える声で少年の名前を呼んだ。


「助けて……リオン」


 どうしてその名前だったのか、ユエには分からない。

 それでもユエは、確かにあの優しい少年の名前を口にした。


「ユエ!!」


 少女のその小さな声は、少年に助けを求める微かなその呼び声は、少女の期待に応えるように、待ち望んだ人の声を届けてくれた。


 ユエが泣きそうな顔で、上を見上げた。

 そこには名前を呼んだ少年────リオンがいた。



 僕はヴィリムくんの言葉を聞いた瞬間、何も考えずに飛び出した。

 事は一刻を争うと判断したからだ。

 ユエは魔術寄りの訓練を積んでいるらしく、魔物との戦闘は無いに等しい。

 ゴブリン程度なら一方的に殺せるかもしれないが、ヴィリムくんがわざわざ化け物という存在だ。

 残念ながらその程度で済んでくれるはずがない。


 そしてさらにそれに追い打ちをかけるようにちょうど、村には大人の男手が残っていなかった。

 主戦力となるような戦士は皆、戦場に出張っているためだ。

 僕たちより上の世代の子どもたちも今、魔物を狩りに行っていたり、食料採集で丁度姿が見当たらない。


 女性陣たちが何事かと家々から出てきているが、妊婦だったり、戦いから離れて久しい人ばかり。

 頼りになるとは思えなかった。


 あと少し早ければ狩りに出かけた上の子どもたちが、少し遅ければ食料採集から帰ってきた子たちだっているはずなのに。


 その丁度、間隙を突くような急報に、誰も素早く対応できないままでいた。


 今の村の状況を即座に理解して、僕は一人、山へと駆けだした。


 魔力を全身に回して山を登る。

 小さな山だが、木々が生い茂っていて走りにくい。

 草木を掻き分けて、ユエの名を叫びながら僕は必死に彼女を探した。


 ヴィリムくんに聞く限り、この辺りのはずなのだが、そう広い山ではないとはいえ、代わり映えのない景色の中から地面の穴を探すなんて至難の業だ。


 どうすればいいか考え始めた時、身の毛もよだつほどの獣の咆哮が山全体に轟いた。

 僕は出所の方向すらあやふやになってしまいそうなほどの大音声の中、方角だけは手放さないように意識を向けて声の方へと走り始めた。


 この辺りのはずだ。


 僕は地面に目を這わせて遂にそれを見つけた。

 人が一人落ちるには十分な穴。

 その穴を覗き込むと、そこには必死に探していた少女──ユエがいた。


 「ユエ!!」


 大きな声でユエの名を呼ぶ。

 ユエが僕を見上げて、安心したように小さく笑った。

 しかし、その小さな体を化け物の大きな口が覆いつくした。


「ユエ!?」


 躊躇わず、穴を一直線に落ちる。

 化け物と目が合った。

 その牙はまだユエに届いていない。

 僕はその化け物の鼻っ柱を思いっきり蹴り飛ばした。

 足に伝わってきた重たい反動に、思わず顔を顰める。


 多少の痛痒を与えることには成功したのか、その化け物はユエから牙を退いた。

 僕はその化け物を見て息を呑む。

 その大きな体躯を持つ四足獣は、大人の背丈も余裕で越える体高を持つ虎のような姿をしていた。

 サーベルタイガーのような見た目だが、その白い毛並みもあって神秘的にすら思える。

 息を呑むほどに、美しいと感じた。

 それと同時に畏れ多さを抱いた僕は反射的に膝を突きそうになるも、それもなんとか抑えることができた。


 冗談じゃない。

 化け物だとは聞いていたが、本当に嘘も誇張もなく化け物じゃないか。

 少しくらい加減してくれてもいいじゃないかと僕は心の中で毒づいた。


「リオン」


 ユエが不安そうに僕の名前を呼ぶ。

 ここは大人として、小さな女の子を安心させるべきだろう。

 僕は大人としての矜持を背中で見せる。


 ごめんなさい。

 足ガクガクです。

 こんなの子どもも大人も関係ないです。

 無理です怖いです。


 僕はこんなデカブツ相手に頼りになるかも怪しい子ども用の剣を腰の鞘から抜く。

 カタカタと刀身を鞘に擦らせながらの不格好な鞘走りだ。

 酷くかっこ悪い。

 それでも僕はなけなしの勇気を出して白虎に向かって剣を構えた。


 白虎は不思議とその間も大人しかった。

 まるでこちらを値踏みするような視線だ。


 この勇気ある姿を見て、逃がしてくれないだろうか。

 僕は心の中でそんな淡い期待を浮かべたが、再び開かれた口から轟く咆哮を前に、その期待も露と消えた。


「やっべ。これかテない」


 つい弱音が口を突いた。

 ユエを不安にさせてしまったかと心配になるが、後ろを振り返る余裕はない。


「戦うの……?」


 ユエが僕にそう尋ねた。

 そのために来た────そう言葉にしたいが、まさかこんな相手だとは思わないじゃないか。

 

「リオンなら、ここから逃げられる」


 この子はなにを言っているのだろうか。

 女の子を助けにきて、いざ敵を目の前にして「やっぱり怖いんで帰ります」なんて言えるわけないじゃないか。


「ユエと一緒なら逃げてもいいよ」


 だから僕はそう言った。

 せめて逃げるなら二人でだ。


「でも……」


 ユエが言わんとすることは分かる。

 最初に彼女を上から見た時には気付いていた。

 彼女は足を怪我している。

 おそらく捻挫辺りだろう。


「ユエならそれ、自分で治せるよね。僕が時間を稼ぐから、まずは足を─────」


 僕がそう口にした瞬間、白虎が突然その爪で襲い掛かってきた。

 咄嗟に爪と自分の間に剣を挟んで、その薙ぎ払いを受ける。

 体が粉々になりそうな衝撃に、僕は言葉も出せないまま勢いよく壁に激突した。

 無駄に広い洞窟にその衝撃が伝わり、天井から小石が降ってくる。

 

「リオン!」


 ユエが叫ぶ。

 その珍しい光景に僕は場違いにも少し笑ってしまった。


 すごく痛い。

 多分、骨の何本かは逝っていそうだ。

 崖転げや剣の稽古による骨折の数々で無駄に頑丈になった僕の骨をこうも容易く折るなんて大したものじゃないか。

 僕は彼我の戦力差にバカバカしくなって思わず笑みを零した。


 白虎が僕を不思議そうに見る。

 立ち上がらない僕を見て、興味が失せたのかその顔をユエに向けた。


「まテよ……」


 魔力を回す。

 そしてこの暗闇の中でも戦うため、普段は回さない目にも魔力を通わせた。

 目の機能が上がったのか、少しだけ明るくなった気がする。

 しかしそれ以上に、白虎の体が光って見えるようになったのが大きい。


 乳児期に試したことのある目の強化。

 これは相手の魔力を視認することができるようになる強化の一種だ。

 これなら、暗闇の中であろうが、相手は蛍光塗料まみれで戦っているようなもの。

 相手の詳しい位置や攻撃で振るわれる四肢が視認できるなら、もう問題ない。


「悪いけド。僕の相テしテよ。僕、猫好きなんダよね」


 剣を白虎に突き出した。

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