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【第二章開始】 転生したら戦闘民族だった~スパルタで物理極振りな僕がおっきな猫と征く世界戦場旅行。ついでに五大先史文明も調査検討中~  作者: 四季 訪
継いだ命

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第15話 バッドコミュニケーション

 僕はどうやら出来損ないというやつらしい。


 遺伝子レベルで闘争本能が研ぎ澄まされてきたこの少数民族にとって、敵を殺すという行為は名誉なことであり、決して罪悪感を刺激されるような行為ではないのだという。

 大体の子どもが最初こそ敵を前に怯えこそすれど、一度敵の排除を経験したらそんな怯えもなくなってしまうとのこと。


 あまりに戦闘民族すぎる。


 遺伝子レベルとはいうが、僕にそこまでの闘争本能はない。

 なんらかの原因でその遺伝子が欠落したのか、それともその遺伝子を前世からの記憶と経験が凌駕してしまったのか。

 とにかく、僕に敵を倒して楽しいだとか、名誉に感じる感覚は全くと言って良いほどに存在しなかった。

 自分の命を狙う敵だと頭では分かっていても、心が相手を殺すことを拒絶してしまう。


 甘っちょろい考えだと自分でも思うが、生まれ持った心根を賢さだけで書き換えられるほど、僕は器用でもなかった。


「リオンはそのままでいい」


 シロ&ラブ&ソックスのお腹に顔を埋めて回る僕に、ユエがそう言ってくれた。


「リオンはとてもやさしい人だから。無理してそんなことに慣れる必要はない」


 ユエの励ましの声が、耳を覆う体毛越しに聞こえてくる。


「……私は今のままのリオンがいい」


 シロの腹に顔を埋め、ラブの肉球を揉みしだき、ソックスの体に背中を預ける僕の耳がほんの微かにユエの声を拾った。


「すー、はー、すぅぅぅ…………はぁぁぁぁぁ。ごめん、ユエ。なにか言っタ?」


「……」


 僕は自分がユエにこの間のことを愚痴っていたことを、ハウル吸いの途中ですっかり失念してしまっていたらしい。

 むっつりとしたユエが僕にジト目を寄越してくる。

 大丈夫。ユエからの励ましの言葉は途中まで耳たぶあたりになんとか残っているから。


「ありがトう。ユエ。僕頑張っテ強くなるよ」


「……分かってない」


 むすっとしたユエの頭を撫でて、僕は誤魔化すことにした。

 どうやらユエは人に頭を撫でられるのが好きなようで、こうして時々撫でてあげると目を瞑って心地よさそうにする。

 そんな小動物のような見た目のユエに心が癒された。


 分かっている。

 ユエが僕を元気づけるために、そう言ってくれていることくらいは。

 

 変わらないでいい、なんてことは、この村で生きていて許されることではない。

 大きくなれば、この「冬の大地」の支配を求めて攻めてくる軍勢と戦わなくてはならなくなる。

 その時に、敵を殺せません、なんて甘えた言動はみんなの足を引っ張るだけだ。

 下手をすれば見知った仲間を道連れにしかねない、愚かな性分でもある。


 だからこそこの村では、果敢に戦い、勇猛に死ぬ戦士が求められるのだ。

 敵は多く殺せ、死ぬなら一人で死ね。


 戦場の掟とは、雪に覆われつつあるこの大地同様に、冷たく厳しいものなのかもしれない。


 僕の脳裏に失いたくない人たちの顔が浮かび上がって、同時に焦りが増した。


 目の前で目を瞑るこの子も、その中の一人だ。



 ユエが先に帰り、僕もようやくハウルたちのもふもふから体を離して帰路に着く。

 うぅ、犬肌恋しいよぉ。


 そうして、ハウルたちの厩舎から離れると、近くにヴィリムくんが立っていた。


「よぉ」


 不機嫌そうなヴィリムくんが、僕を睨んでいる。

 どうしたのだろうか。また喧嘩でも吹っ掛けられるのだろうか。


「そう警戒すんなよ。やり返してこない奴にわざわざ喧嘩吹っ掛けるかよ」


「意外と紳士ダね」


「しん……なんだ?それ」


 知らない言葉に首を傾げるヴィリムくん。

 わざわざ僕に世間話をしに来たのではないだろう。


「なにかよう?話デもあるの?」


「……」


 腹の探り合いとか、そんな子供らしくないやり取りなどせず、単刀直入に行くことにした。

 すると、ヴィリムくんは少しだけ顔を赤くして、僕から目を逸らしてモジモジし始めた。


 まるで好きな子の話をするときのようだ。


「はっ!まさか!」


「なっ!なんだよ!」


 過剰に反応するその姿を見て僕は確信した。

 やはりこれは恋愛に疎い子ども特有の羞恥心だと。

 こなれた大人が見せなくなった初々しい反応に僕はどこか気恥ずかしくなった。

 え?僕はどうかって?……聞かないでください。


「ヴィ、ヴィリムくん。もしかして……」


「お、おまえっ、いきなりなんだよ!」


 陽が傾いた赤い空。

 後ろで僕らを見守る三匹の友人。

 目の前には夕日のせいではない、顔を赤くした年頃(七歳)の男の子。


 ま、まさかこの状況。


「な、なにもじもじしてんだよ……」


「も、もしかしテヴィリムくんは、好きな子がいるの?」


「な!なな!なんでおまえ!」


 図星だ。

 あぁ、やはり僕の嫌な予感は的中してしまった。


 そりゃ、そうだよな。

 周りとは少し変わった子で、ある意味目立つ大人しい子。

 そして母親譲りの美貌が垣間見れる─────紅顔の美少年。


 僕はどうやら一人の男の子の性癖を歪ませてしまったらしい。


「ごめんね。ヴィリムくん。暴力的な子はあまり……」


「え、そ、そうなのか?そんなこと、言ってたのか───ユエは」


「うんうん。優しい人が良いっテ……あれ?ユエ?」


 僕はショックを受けた様子のヴィリムくんに怪訝な目を向けて、違和感の正体にようやく気付いた。


「なるほど!ユエか!」


 僕は手をポン、と叩いて一人で納得した。


「誰だと思ったんだよ」


 僕を訝し気に見るヴィリムくんからそっと目を逸らした。

 どうやらこの子はユエの事が好きらしい。

 考えてみればそれも当然か。

 同年代の子たちの中にも女の子は何人かいるが、ユエはその中でのとびっきりの可愛さを誇っている。

 平均レベルの高い子たちの中でも、その物静かな性格を含めて特に目立つ子だ。

 将来の競争率は恐らくとんでもないことになることが予想される。


 傷つけずにどうやって断ろうとか、この子の性癖の事とか、いろいろと心配していたが、その必要も無さそうだ。

 僕は額の汗を拭った。


「お前、最近ユエと仲いいよな。どうやって仲良くなったんだよ」


 どうやら秘訣を聞きに来たようだ。

 意外と健全で安心した。

 ユエに近づくな、とか実力行使されるものかと思っていたから。


 何がきっかけだったかな。

 僕はユエと仲良くなった経緯を記憶から捻りだす。


「襲っタ?」


「は?……はぁ!?おまえなにやってんだよ!」


 ヴィリムくんが腰に下げた剣を抜いた。


 やっぱり実力行使か!

 なんて暴力的なんだ!


「ち、ちがう!彼女も楽しんデタ!」


「おまえぇぇえ!言うに事欠いてそれか!」


 どこでそんな言葉を!?


 弁明として合意であったことを示したのに、ヴィリムくんの顔はさっきよりも赤く染め上がっていた。

 これは照れとかじゃなく怒り心頭というやつですね。


 僕は間違ったことは何一つ言っていないのに、ヴィリムくんの僕への殺意はどんどんと大きくなっていく。


「本当にお前、そんなことしたのか!?そ、それであのユエがおまえを受け入れたってのか?正面から襲って……それでユエが受け入れてって、それもう……」


 勝手に解釈してどんどんショックを大きくしていくヴィリムくん。

 彼の中ではどんな想像が膨らんでいっているのだろうか。

 確かに僕はユエを捕獲しようと襲ったが。


 いや、待てよ。仲良くなったきっかけはそこからだっただろうか。

 捕獲しようと試みていた時はとにかく彼女に逃げられまくっていた。

 彼女から興味を持たれてこちらに歩み寄ってきたのは、もっと別のタイミングだったはずだ。


 そうだ!


「騙しタんダよ。彼女を……ね」


 僕は自分の古典的な「あ!UFO!」作戦という妙手を思い出して、したり顔でヴィリムくんに笑いかけた。

 思ったよりニヒルになった僕の笑顔は彼にはとても悪い顔に映ったかもしれない。


「……おまえ。最低だな。見損なったぜ」


 すっごく睨まれた。

 あれ~?どこで選択肢を間違えたのだろうか。


 僕は彼との間にバッドコミュニケーションがあったことを察した。


 ヴィリムくんがなにやらすごい顔で僕を睨みながら、どこかへと歩いていった。

 彼が歩いて消えていく途中、正義感に溢れた声色で「俺が助けてやるからな」なんて言葉が風に乗って僕の耳に届いた。


 誰を助けるつもりなのだろうか。

 僕は良く分からない七歳児の言動に首を傾げて家に帰ることにした。


 父から「遅い」と怒られた。

 ヴィリムくんのせいだ。

 僕は次に彼に会ったら文句を言ってやろうとこの時思った。


 しかし、そんな考えも次の日には吹き飛んでしまった。


「ユエが、ユエが山でっ化け物の巣穴に落ちたんだ!誰か助けてくれ!」


 そう、ヴィリムくんが叫んでいたのを耳にして、僕は考えるよりも先に彼に大まかな場所を聞き出した。


 そして全速力でその山へと向かった。

 

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