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ヴェルサリオン戦記〜三つ子の魂百まで〜  作者: 四季 訪
継いだ命

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第11話 九死に一生?いいえ、

 僕は六歳になった。

 日々は相変わらずで、毎日がスパルタ訓練の毎日だ。

 父の木刀による打ち込みも容赦がなくなってきている。

 最近は青あざが綺麗になくなった試しがないほどだ。


 代わり映えのない毎日。

 ウォーミングアップに崖を転げ、走り、そして父ににしばかれる。

 しかし、そんな地獄のような日々の中でも、ひとつだけ変わったことがある。


「……美味しいものの話もっとちょうだい」


 それは新しく友達になったユエの存在だ。

 あの日から友達になった僕たちは、時間の合間に顔を合わせてお話をするようになった。

 主には彼女が大好きな食事に関すること。

 特に地球の食事に関しては強い興味を示している。

 僕が前世の食の話を本や母から得た知識だと誤魔化しながら、彼女にすると、彼女はとても目を輝かせながら聞き入るのだ。

 しまいには口の端から涎を垂らすほどで、その姿がとても子どもらしくて愛くるしい。

 だから僕はついつい親戚のおじさん気分になって話過ぎてしまう。

 知識の出所に疑問を持たれまいか少し不安になるが、まぁ、どうとでも誤魔化せるだろう。


 目の前には可愛らしい友達。

 周りにはふわふわもこもこのハウルの三兄弟。

 彩の加わった僕の唯一のオアシスは、今や僕にとって欠かせないものとなった。


 もちろん、お話は僕が話すことばかりではない。

 基本的に聞き専のユエだが、僕が抱いた疑問や質問に対しては短くもきちんと答えてくれる。

 だから僕は、六歳になったこのタイミングで、ユエに恐る恐るとあることを聞いた。


「ちょっト前からポラン君が毎日のように怪我しテ帰っテくるけド……なにしテるの?」


 僕は自分に以前からじりじりと迫りつつある危険の気配の正体について、ユエに聞いてみることにした。

 年齢以上に賢い早熟な彼女だ。なにか知っているかもしれない。


「……魔物」


「え。、魔物……?」


「うん」


「魔物って、緑色の醜い顔の小人とか、三つ首の番犬とか……?」


「すごい。リオン良く知ってるね」


 普段から眠そうなユエの目が見開かれた。


 どうやら正解だったらしい。

 テンプレで助かるよ。


「え?マジ?」


 僕は彼女が事も無げに答えたその内容に口があんぐりと開いた。


「まじ」


 彼女は短く魔物とだけ答えた。

 それはつまり戦うということに間違いはないはず。

 僕は腰に下げた子ども用の小さな剣を見て率直に思った。

 こんなもので勝てるのだろうか。


 技は小、体は中、心は大。

 父が最近僕に良く言う言葉だ。

 それぞれの素養を培う時期を指すらしい。

 この中の「技は小」。

 これは技術を身に着けるために必要な手先、体の感覚を最も養う事ができる時期を示しており、今の僕の年代を指している。

 だから僕の歳頃になると皆が皆、剣を握る感覚や、剣を腰に下げての動きの感覚を身に着けるために、常日頃から帯剣させらている。

 それに倣って僕も佩くようになった小さな剣。

 しかし、これでまだ見ぬ魔物を倒せと言われても、不安は募るばかりだ。


「……大丈夫。リオンなら」


「ユエ……」


「ずる賢いから。しぶとく生き残る」


 ユエの僕に対する印象は、あまり快いものではなかった。

 一体、どこでそんな誤解を与えてしまったのか。

 僕は首を傾げた。


 まぁ、そう不安に思っていても仕方がない。

 ポランくんが、魔物との戦いに駆り出されるようになったのは、僕の歳月からもう少し先。他の子も大体そのくらい。

 僕はそれまでになんらかの対策を講じて、楽をさせてもらおう。

 僕はまだ先の話に安心して会話に花を咲かせた。

 

 良し、次は甘いお菓子の話なんてどうだろう。

 そう考えて、僕は甘いタケノコの話だけを彼女にした。



「下に降りたら、そこの敵をやってこい」


 冷たい風が頬を撫でる。

 断崖絶壁。

 僕は霧で下が見えない、切り立った崖の淵に立たされていた。


 父は降りたらと申されますが、梯子も階段もなにもありません。

 優に高さは数十メートルはありそうで、岩肌も殺意マシマシです。

 そんな所から父は息子に向かって降りろと言います。

 それは滑落というのが正しい表現ではないでしょうか。


 僕は父に子どもらしい、愛らしい目を送って懇願した。

 父がニヒルに笑う。

 背中に父の足裏がピタリと合わせられた。


「あ、あの……やるっテまさか、まも─────うわぁぁぁぁあぁあああ!」


 聞き終えるよりも先に、父が僕を蹴落とした。

 僕の断末魔が峡谷に響きわたった。


「ひぃっ!」


 なんとか受け身を取りながら転がり落ちる途中、視界に突然現れた尖った岩肌に頬を裂かれて悲鳴を上げる。


 死にかけた。


 その事実に本能的に僕の集中力が一気に限界までせり上がる。


 これまで以上に視界と受け身に全神経を集中させて、転がり落ちていく。

 大きな岩は全身を使って衝撃を分散させ、小さな岩は胸部の木の部分鎧や篭手で防いで怪我を防止。

 岩壁から生える小さな植物に隠れるようにして突き出る岩には最大限、注意を割く。

 こればかりは反射神経にものを言わせるしかない。


 霧を抜け、谷底が見えた。

 僕は喜ぶのもつかの間、この速度では地面に激突して大惨事になりかねないことに気付いて、顔を青ざめさせる。

 視界の隅、転がり落ちる軌道をこのまま横へと逸らすことができれば、比較的なだらかな傾斜のある方へと進むことができる。

 僕はその場所目掛けて、丁度いいサイズの岩を足場に蹴る。


 強引な方向転換に、いくつか受け身が疎かになってしまったが、なんとかその傾斜へと移ることに成功した。


 僕は広げた手足全体でブレーキを掛けながら、減速させるも、地面へと身体が放られた。


「いったたたたた」


 うつ伏せのまま、思わずこっちの言葉も忘れて、日本語で痛がってしまった。

 ユエあたりが聞いていたら興味津々で「……それどういう意味っ、麺類っ?」と鼻息を荒くしていたかもしれない。

 あれで好奇心旺盛だからな。ユエは。

 まぁ、こんな所に《《人が》》いるわけないし、そんなに警戒することもない。


「ふう。なんとか生き延びた生き延びた」


 久しぶりの日本語は、想像以上に僕の心を落ち着かせてくれた。

 やっぱり母語だよ母語。


 母とつく奴はなんでも偉大だな、と僕は感心しながら顔を上げた。


「莠コ髢薙°?」


「蟄舌←繧ゅ□縺ェ」


 そこには二体の人型立っていて、僕の顔を訝し気に見ていた。


 ─────「倒してこい」

 

 僕は父の言葉を思い出して、冷や汗を浮かべた。

 戦う前から味わった九死に一生で忘れてしまっていた。

 これまでのはただの「降る」という行為に過ぎず、それが本番では全くないということに。

 むしろ、本当の九死に一生はこれからであるということを。


「縺薙l縺ァ縺励?繧峨¥鬟ッ縺ォ蝗ー繧峨↑縺?↑」


「繧医@縲√%繧阪◎縺」


 全く理解できない言語でなにやら話あっている。

 その表情には笑みが浮かんでいた。


「こ、こんにちわ。はは……えっと、ハロー?あはは……にーはお?」


 その笑みが友好的なものだと信じて、僕はコミュニケーションを試みる。


「閧峨□」


 しかし、けむくじゃらは手に持ったこん棒を僕の頭上へと振りあげた。


 訂正。

 これは九死に一生ではなく、絶体絶命が適切なのかもしれない。


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