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2夢の中の現実

彼が再び目覚めると、目がぼんやりしか見えなくなっていた。

『僕はとうとう目も見えなくなったようだ。』

彼は気落ちして、もう直ぐ楽になれる。母にももう手間を賭けさせることもなくなるだろう。と考え、それからはただ死を待つように眠って過ごした。

あるとき、母だろう声が聞こえてきたが、意味も分らなくなった。頭も働かなくなったのだ。

気力が萎えまた眠りにつく。

だが、死はなかなか彼の願いを聞き届けてはくれない。

どれほどの時間が経っただろう。ふと自分の手が自分の顔を殴って、ビックリして大きな声で鳴き出した。

彼は益々狼狽え、驚いた。

『声が出ている。手足も動いている。』

「**********」

「***!**」

意味をなさない声が聞こえてくる。

『僕の頭は元には戻っていないようだ。しかし目が薄ぼんやりだが見えているぞ。』

と考えた。僕は若しかしたら、病気を克服したのだろうかと。


彼は、フランと呼ばれるようになった。

フランは、この頃やっと自分は生まれ変わったことに気づいた。

『言葉は分らないが、多分ここは西洋だ。生活レベルが、恐ろしく低いが、僕は健康だ。それだけで天にも昇る心地だ』

フランは、順調に大きくなった。この家は、裕福ではないが、子供には不自由させるほどではない。要するに中流家庭だ。フランは、3人目の子供だった。上の子は15歳の長男がいて12歳の次男、そして離れた年の三男坊としてフランが生れた。

父は騎士だという。騎士とは随分と前時代的だ。ここは一体何処の国だろう。

言葉が話せないフランには皆に聞くことは出来ない。だが相手の言葉が理解できるようになっていた。

未だ6ヶ月の赤ん坊なので、まさか、自分たちの言葉が理解できるとは、周りは考えてもいないようだが、フランは何時も皆の言葉をじっくりと聞いて、情報を得ようと躍起になっていた。

「この子は何か変わっているわ。まるで子供らしくない。余り泣かないし、私達が話しているとじっと聞き耳をたてているようなの。」

「賢い子供なのだろう。良かったではないか。君の手を煩わせなくて。」

「でも、手が掛かっても構わないのに。久し振りに赤ん坊の世話が出来て嬉しかったのよ。それなのに上の子供達とは、違いすぎて。」

フランは仕方なく、手を掛けさせてやることにした。つまり、泣いてみた、大声で。

「あらあら、珍しい。オーよしよし。」

これで、暫くは大丈夫だろう。変な子供だと思われるよりは良い。

「私には普通の子供に見えるがな。」

「そうね、考えすぎね。」


それからは順調に育って、フランは2歳になった。

「フラン。この本に手を触れないでくれ。」

直ぐ上の兄は14歳になって、騎士学校の期末試験の勉強をしている。長男はもう王都に行って騎士をしていた。

毎朝、父と次男は剣術の稽古に余念が無い。次男も騎士学校を来年卒業したら王都の騎士になることを希望している。その為に、一所懸命勉強をしていた。

この国では騎士は貴族とは言われない。只の職業だ、フランには兵士との違いがよく分らない。

試験を受けて学校へ行き資格を取れば騎士になれるという。

父も兄達も騎士だ。フランも騎士になることを父に期待されていた。

フランはそれは決めるのは未だ早いと考えていた。

この世界は、若しかして以前の世界と違うのではないか。だから少しでも情報を得ようと、兄の本を盗み見る。しかしなかなか見せて貰えない。2歳の子供に大事な本は、預けられないと、高いところに置かれてしまうのだ。悔しい。字さえ読めれば他の情報が分るのに。字は未だ教えて貰えないでいた。

「かか様、僕にも字を教えてください。」

「まあ、まだ早くない?もう少ししたら、とと様に教えて貰えますよ。」

のんびりした性格の母親は、文盲だ。この世界は女は字を読めなくても良いとされているようだ。

昔の西洋もそうだったように思う。昔の日本では結構な識字率があったように記憶していたが。

寺子屋のような施設があれば良かったのに。

「かか様、教会はありますか?」

「教会?神の館のこと?あそこは魔術師になる人が行く所ですよ。親がいない子供や、貧乏人が子供を預けるところなのですよ。フランはその様なところでなにをしたいのですか?」

魔術師?そんな職業があったのか。僕はそこへ行ってみたい。でも、母の言い方を聞けば、行かせては貰えそうにない。なんとかならないだろうか。


それから少しして、戦争が始まったと父が、母に話しているのを聞いた。

隣国と、魔の森の利権を争っていたが、とうとう隣国が実効支配してしまった。

魔の森は多大な恩恵を国にもたらす。この世界には、魔獣という生きものがいて、その素材が国の利益になっているようだった。もうここは異世界であろう。フランは新たな情報に興奮した。

孤児が行くところだろうが、なんだろうが、僕は神の館に行く。一人決心した。

戦争には次男も行くことになったようだ。

家には母とフランが二人残った。




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