15魔術師トーマスマン・キングス
「よくいらっしゃいました。ボーア国の魔術師殿。」
彼はこの南の森を国から納めるように配置された魔術師で、トーマスマン・キングスと言った。
彼は未だ43歳の魔術師では有るが、国からの信頼が厚い。国一番の魔法の使い手だ。
彼はフラン達がボーアから来たことに興味を持った様だ。普通は面会などしないと言われた。
「精霊樹ですか?」
「そうだ。君たちは北の森の精霊樹で、魔法の杖を作ると聞いている。私は見たことがないのだ。是非私に売ってくれないか?」
そこでエステバルは精霊樹について講義をした。精霊樹の杖は誰でも貰えるわけではなく、ある一定の使い手になり、ある一定の年齢でないと精霊樹は枝を落としてはくれない。
これから、どの属性を伸ばしていけば最適かを教えてくれる木である。
枝が欲しくても、貴方では年を取り過ぎていると。
トーマスマンはそれはもうがっかりして仕舞った。
「もう私ではだめか。君たちの枝も使えないとは。これ以上の成長はないと言う事になるな。」
精霊樹の枝は、本人の可能性を伸ばす。しかし可能性が無い物には枝は落とさない。結構シビアな結果だ。
「こちらでは魔法の杖は、どのように作っているのですか?」
トーマスマンは素直に教えてくれた。
それはフラン達が初心者用に使っていた杖だった。
自分に合わなくなっても使い続けなければならないとは、歯がゆい思いをしていただろう。
「だったら、トレントの木で作る魔法のステッキを改良して見てはどうですか?。」
余り威力は出ないが、彼なら改良してもっと良い物を作れるかも知れない。
魔力の伝道率が良い物なら、魔石を工夫すれば威力が上がる気がする。
属性ごとに使いこなさなければならないが、本人が得意な属性が分ればそれを使っていけば良いだけだ。なにも精霊樹に拘る必要は無くなる。
「そうだな、何か考えてみよう。自分の属性を引き出す杖か。そう言う考え方もあったな。」
トーマスマンはフラン達に是非此処に居て弟子達と学んで行きなさいと言ってくれた。
ありがたく申し出を受け、暫くご厄介になることにした。
弟子達は全部で5人居た。6歳から11歳までの子供達だ。
君たちも孤児かと聞くと、憤慨して、
「私達は孤児ではない。跡継ぎには成れないが、れっきとした貴族だ。」
と言われた。この国では貴族の子供で、才能が認められれば魔術師に弟子入りできる。
お金も相当掛かるらしい。そしてこの制度は昔から連綿と続いている方法だと言われた。
フラン達は知らなかったが、どの国でも同じ方法を採っていた。ボーア国だけが、ある時分から変わってしまったと言う。
魔力は結構な割合で皆持っているが、魔力を大きくするには、幼い内に術を施さなければならない。
その為、如何しても小さいときから弟子入りしないと魔術師には成れない。お金も掛かる。
必然的に、貴族の子供が魔術師に成るようだ。平民に魔術師はいないと言われた。
国が違えば、考え方も違うのだと認識した。
フランはボーア国に生れていなければ、魔術師に成れなかったのではと考えていた。
「この国の平民に生れていれば、お金がないから魔術師には成れなかったんだな。」
女性はどうするのかと聞くと、女性は結婚してしまえば魔力が伸びなくなるから、才能があっても弟子には成れないそうだ。
フランにとっては納得がいかない論理だが、女性の人権が低いのは前世でもあったことだ。
弟子の子供達は普段は森へ行って魔獣を獲っているというので、一緒に行くことにした。
南の森は、やはり魔の森と呼ばれていた。
ここに精霊樹が本当にないのだろうか。森の雰囲気は北の森とは全く違っていた。まるでジャングルのようだ。アマゾンとまでは言わないが、南国特有の色とりどりのインコのような鳥が飛び交い、猿が木を飛びながら移動している。
森には所々湿地があり、気を抜くと沼に落ちてしまう。
足下に気を付けながら歩いて行くのでなかなか森の奥まではいけなかった。
弟子の一人、11歳の最年長のカストルが、
「この沼には亜人が潜んでいる。危ないからもう帰ろう。」と言った。
その言葉に従いその日は狩りを終わりにした。
亜人とは、初めて聞く言葉だ。エステバルと二人で日を改めていくことにしたのだった。