10リスト辺境伯
この頃、ここの冒険者ギルドの成果がめざましい。
リスト辺境伯、デスコバル・リストは家臣に命じて,その理由を探っていた。
「お館様。原因が、判明いたしました。」
「して、その原因とは,上級冒険者でもいたのか?」
「いえ、どうやら、魔法袋が安く出回ったようです。殆どの中堅冒険者に行き渡っておりました。」
魔法袋のような,高価な物は,貴族でもなかなか手に入らぬ。どのような伝手を辿ったのか。
魔術師しか作れない為数が限られているはずだ。
ここリスト辺境伯は孤児院に寄付をしていた数少ない貴族だ。彼が,今一番にがにがしく思っていることは,魔法神殿学校が廃校になって仕舞ったことだ。
今まで、多くの魔術師に仕官して貰ったが,この間の戦争で殆どが死んで仕舞った。
今いる魔術師は未だ若い。もう少しここに仕官して欲しかったのに。魔法学校は国が助けてやらなければ,いけないことだったのに国王は「いらぬ」の一言で済ませてしまったのだ。
未だ魔術師の卵達が大勢いたにもかかわらず、只の孤児院に戻してしまった。勿体ない事だ。
王は過去にあったことで魔術師を嫌悪する。王都にも魔術師がいるではないか。随分助けられているはずなのに。
あれほどの功績にもかかわらず,魔術師の地位は低いままだ。
このままでは,隣国に再び攻め入れられれば、たちどころに魔の森は乗っ取られてしまうだろう。
そしてこの領も危機に陥る。
この間の戦争で、実際戦ったのは,殆どがこの領の者達と、国から呼び込んだ騎士達、魔術師達だ。
魔術師は役に立つ事はこの間の戦争で証明済みだが、功績は王に見ないふりをされた。
「魔法袋の入手経路を調べてみてくれ。」
「それは,判明いたしております。どうやら,領の冒険者ギルドに魔術師が登録していたようです。」
「なんだと、話が来ていないようだが。」
「それが,卒業間近で襲われた生き残りのようです。」
生き残りがいたとは。殆どの教師はやられてしまって,孤児も死んだ物とばかり思っていた。学校の最後の生徒か。では,魔術師の紹介が得られなかったせいで,仕官出来なかったのか?そんなはずはない。院長とは,知り合いだ、ここに仕官させたければ紹介したはずなのだ。何かあるのだろうか?
フランは,やっと冒険者の仕事が出来るようになった。
エステバルとペアを組んで,どんどん森の奥で狩りをする。
そこには,精霊樹があった。そして精霊樹には先客がいた。
素早く二人は影に隠れ様子を覗う。
「ここを占拠できれば、我が国は魔術師を育てる事が容易になる。なんとしてでも欲しい。」
「誠ですな。我が国では魔術師を優遇できるのに、こんな物知らずな国に魔術師が多くいるとは,全く旨くゆかぬ物です。」
「ふ、ふ、それももう直ぐいなく成るであろう。我らの作戦が効を奏した。」
「暫くはここは魔術師がいなくなるだろう。今のうちに攻め入ると言う事だ。」
エステバルは、話していた隣国の魔術師の顔に見覚えがあった。
自分たちを襲った内の生き残りだ。今ここで殺してしまいたい。だが,それでは相手の出方を知ることが出来ない。フランに止められ、冷静になった。
フラン達はその話をじっと聞いていた。隣国は計画している。ここに攻め入ることを。
「今ここでやってしまうより、攻めてきたら,纏めてやっつけてやろう。」
「そうだな。その方が気持ちがスッキリする。」
二人は,決心した。自分たちだけではどうしようもなく大きな物になりそうだ。辺境伯に話しに行こう。
デスコバル・リストは二人の孤児の話をじっと聞いていた。そして最後にこういった。
「君たちは,この国に恨みはないのか?ここまで尽くしてきた魔術師に対して全く敬意も尊敬もしないこの国よりも,隣国の制度の方が魔術師を育てる事に力を入れているようだが。」
「そうですね。俺も、話を聞いていてそう感じました。でも、俺には敵を討ちたい理由があります。」
エステバルはそう言って辺境伯の目を見た。
デスコバル・リストは今度はフランを見て同じ質問をした。
「僕は,実を言えば,心が揺れました。僕は魔術師になるのが夢でした。ですが,こんなにも魔術師の地位が低いのには他にもこの国特有の理由があるのかと考えています。」
「そうだ。実はある。しかし、今その事を言っても詮ないことだ。ずっと昔の事でな。この土地は隣国に接している。有事になれば,国はここを見捨てるだろう。国にとって,精霊樹は価値のないものと考えている。多分戦争に負ければ,サッサと精霊樹と辺境伯は隣国の物にして戦争を終わらせるだろう。」
辺境伯は,今、国の内部を探っている最中で,これからのことは任せて欲しいと言ってきた。
そして,私怨についても、個人のことは目をつむる。と言ったのだ。
これはどういうことだろう。まるで隣国に寝返るように見える。