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1プロローグ
竹ノ内公平は、肢体が不自由だ。
ベッドから起き上がることが出来ないし、食事も母の介添えがないと取ることが難しい。
19歳だが、おむつをしている。手足は細く萎え、首も顔の筋肉も、この頃は動かせなくなってしまった。
多分彼はもう長くは生きられないだろう。
彼の唯一の日課は、パソコンに映し出された小説を読むことだ。
本をめくることが出来ない彼にとって、目の動きだけが残された能力だった。
それももう直ぐ出来なくなるだろう。
彼が眠ると、僅かに微笑んでいることがある。母親はそれを見て、
「素敵な夢でも見ているのね。」
と疲れた笑顔を見せる。この子をもっと健康に産んであげられなかったと自分を度々責めているようだ。
公平は、楽しい夢を見ていた。
そこでは彼は自由に動き回れていた。背は高く、手足は頑丈で、力がみなぎっている。
「僕は自由だ。何処にでも行ける。このまま僕をここに置いてください。」
彼は、言うとも無く心で神に祈っていた。
「毎日目覚めるのが辛い。起きたくない。僕をここに置いて欲しい。」
その夢はもうじき叶うだろう。