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第6話 白浜さんの剃髪

私はクリスチャン…。

ですが、社長は神様よりも尊い御方なのです!

その日、純が出社すると既にオフィスに誰かいた。

「おはようございます、玉木さん」

白浜舞。流転の國では白魔術師だった。

「おはよう、白浜さん。早いね」

そう言ってから、

「あれ?髪の毛短くなってる」

腰まであったはずの舞の髪はショートボブになっていた。

「白浜さん、短いのも似合うね」

ずっとロングヘアだったし、たまには気分を変えてみたかったのかな。

純は女心を推し量る。

姫のお陰で女性の髪型の変化には敏感だ。

「ありがとうございます、玉木さん」

純に褒められた舞は嬉しそうに微笑んだ後、悲しげな表情になる。

「でも……違うんです。後で社長に報告しなければならないのですが、実は……」

「…………?」

何を言い出すんだろう。ていうか、社長よりも先に僕が聞いていいことなんだろうか?

純は困惑するが、舞は真剣な面持ちで言う。

「私は…お寺の長女なんです」

そう言うと顔を背ける。どういうこと?

クリスチャン設定はどこ行った?

「えっと…それは、つまり……?」

純はなんて言ったら良いのか分からない。

その時。

「おはよう。早いわね、二人共」

オフィスに現れたのは社長だった。

「おはようございます!」

二人は声を揃えて挨拶する。

(朝から社長にお会い出来るなんて…)

舞は社長の姿を間近で見られたのが嬉しくて、先程の話を切り出すタイミングを失った。

「あら、舞…」

社長も彼女の変化に気付く。

「髪、切ったのね。ショートボブも可愛いわ」

「ありがとうございます…」

舞は嬉しいような困ったような表情で返事をする。

「…ねぇ、それって…。いえ、何でもないわ。今日は10時から会議よ。場所は第6会議室。全員参加だから、忘れないでね」

社長はそれだけ言って出ていく。

純は舞の話をそれ以上聞くことはせず、自分の席について仕事を始めた。


その日の午後、舞が社長室にやって来た。

「突然申し訳ありません、社長…。私、社員として有るまじき髪型にしてしまいました」

「…ああ、そのウィッグのこと?」

「っ…!気付いていらっしゃったのですか…?」

舞は恥ずかしくて顔を赤くする。

「少しだけ、不自然ね。後で直してあげるわ」

社長はひと目見た時から分かっていた。

純がいたからそれ以上は聞かなかったけれど。

「この会社では髪型は自由だということは貴女も知っているはずよね?…でも、何か悩んでいることがあるなら話して頂戴。社員の悩み事は、そのまま社長である私の悩み事になるの。貴女が嫌でなければ、相談してくれると嬉しいわ」

(社長…!貴女様は流転の國にいた時と同じ。誰よりも優しく慈愛に満ち溢れた御方…!)

舞は泣きそうな表情で、

「…私、実家の都合で仕事を辞めなければいけないかもしれません」

そう言うと、ウィッグを外す。

昨日までロングヘアだった舞の髪は丸坊主になっていた。それも、カミソリで剃ったと思しきツルツル頭になっている。

「確か、貴女の実家はお寺だったわね?」

え?クリスチャンなのに?

「はい。…急な話でした。昨夜、親に跡を継ぐようにと言われて、いきなり髪を切られました。話を聞いてもらうことも出来なくて…」

実家と自分の信仰が不一致の舞さん。

「あんなに長かったのに…あっという間にこんな頭にされてしまいました」

舞は泣くのを堪えながら、話し続ける。

「退職するまでの間はウィッグを被れと言われて、渡されたのがこれです。…やはり不自然ですよね…」

社長は話を聞くと、俯く舞の頭をそっと撫でる。

「つらかったわね、舞……」

「社長……!!」

舞の瞳から涙がこぼれる。

このまま会社を辞めなければならないなんて絶対に嫌!!

泣いている舞に、社長は優しく訊ねる。

「それで…貴女はどうしたいの?自分の信仰を捨ててまで実家の為に仏門に入るつもりなの?」

「それは…」

舞は少し言い淀んだが、

「信仰もそうなのですが、私は何よりこの会社を辞めたくないのです。ずっと神崎社長の下で働かせて頂きたいのです。…私がこの世で最も尊敬している貴女様と離れなければならないなんて……そんなの嫌です!!」

出た。神様よりも仏様よりも偉い社長様。

「貴女の気持ちはよく分かったわ、舞」

社長は立ち上がると、舞に近付いて優しく抱きしめる。その細い腕の中で、舞は悲しみが溶けてゆくのを感じた。

「もう悩まないでいいのよ。これから、私が貴女のご実家に行ってご両親を説得して来るわ。…貴女は私の大切な部下であると同時に、家族のような存在。大丈夫だから、後のことは全部、私に任せて頂戴」

ていうか、社長。説得なんて出来るんですか?

この世界には魔術は存在しないんですよ?

しかし、舞は社長の頼もしい言葉を聞いて、深く頭を下げた。

「社長、ありがとうございます…!どうか、よろしくお願い致します…!」

その後、神崎社長が舞の両親とどんな交渉をしたのかは分からないが、舞が寺を継ぐ話は白紙になり、彼女は自分の信仰を守ることが出来た。

そして、本人の希望通り、舞はこれからも株式会社RUTENで働き続ける。

神崎社長もといマヤリィ様、何をどうしたらそんなにうまくいくの?

まぁ、それは置いとこう。


「舞…?その頭、どうしたんだ?」

ある日、ウィッグを被らずに出社した舞を見て瑠璃が驚く。

「実は…先日、寺を継げと言われて親に坊主にされたのですが…これが意外と快適で……」

青々とした頭を触って、恥ずかしそうに頬を染める舞。

「坊主なんて絶対に嫌だと思っていたのに、不思議ですね。せっかく少し伸びたのに、またツルツルにしてしまいたくなって…。バリカンで極限まで短くした後、カミソリで剃りました。…髪型は自由だと、社長も仰っていましたので」

得度は免れたが剃髪は続行する舞さん。

皆も驚いていたが、彼女が満足そうな顔をしているのを見て、安心した。

「綺麗な頭だな。私も坊主にしようかなぁ」

「る、瑠璃さんはそのままでいて下さいっ!」

舞は思わず大声を出してしまう。

「私…瑠璃さんの美しい金髪がなくなってしまうなんて嫌です!」

珍しく感情的な舞の言葉に瑠璃は微笑んで、

「分かったよ、やらないって。…それに、真綾様がどのようなヘアスタイルをお好みなのかを聞くまでは、私は髪型を変えないつもりだ」

そう宣言する。

「瑠璃殿、そろそろ時間ですぞ」

二人が話している所へ寧々が声をかける。

これから瑠璃は出張だ。

「ああ、悪い悪い。行ってくるよ」

さっさと準備をしてオフィスを出ていく。

「いつ見ても華麗に去っていかれますな…」

颯爽と出ていった瑠璃の姿を見て、寧々が感心したように言う。

「やはり、瑠璃さんは美しいですわ」

麗もうっかり見とれてしまう。

「そ、そんなの秋里だって知ってるわ!」

元恋敵はいつ見ても美しい。認める。

「それにしても、白浜さんが辞めずに済んでよかったよ」

純が言う。実は、他の皆も舞のことを心配していた。

「はい。本当に安心しましたぞ」

寧々が笑顔を見せる。

この世界に『隠遁』のローブはない。

てことで、もう一度言う。

寧々が笑顔を見せる。

「秋里も嬉しいわ。これからも一緒に仕事が出来るのね!」

秋里が言う。嵐樹も頷いている。

どんな世界にいても皆は仲間。

どんな世界にいても皆は彼女(マヤリィ)に仕える者。

和やかな雰囲気に包まれながら、皆は仕事に勤しむのだった。

本編でもシロマは丸坊主ですが、強制されたわけではなく、自分の意思で剃髪しています。

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