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第1話 逆顕現

「ここは…?」

(じゅん)が目を覚ます。

「うわっ、オフィスじゃん!!」

いきなり元の世界!?

(ええ〜!戻ってきちゃった感じ?姫は?流転の國は?皆は???)

頭を抱える。

「どうやら、また別の世界に顕現してしまったようですな」

隣のデスクから聞き覚えのある声がした。

「君は…!?」

「私は黒磯(くろいそ)(ねね)々。流転の國においては黒魔術師を務めていた者にございます」

いかにもOLといった服装。独特の喋り方。

そして、姫にそっくり…!?

「図らずも社長と似た姿でありますが、決して血縁関係があるわけではございません」

寧々は言う。意外と驚きは少ない。

「そうか、君も流転の國から飛ばされたのか。僕は玉木純(たまきじゅん)。改めて、よろしくね」

流転の國にいた頃の名前は思い出せない。

ていうか、ここは元いた世界のオフィスではないのか…?似ているだけか…?

純はそっちの方が気になる。

考えていると、違う方向からも声がする。

「瑠璃さん!何度も言っているけど、社長秘書はこの山吹秋里(やまぶきみのり)ですからね!」

「はっ!英語も話せないくせによく言うよ。覚えておけ、真綾(まあや)様の秘書はこの私だ」

「何ですってぇ??」

分かりやすく女子の喧嘩が勃発している。

片方は黒髪ロングの可愛らしい女性。

もう片方はブロンドの髪をした美女。

「英語が話せるからって自慢しないでよ!ハーフなら話せて当然でしょ!」

秋里がヒートアップする。

「でも国籍は日本だからな。…ほら、見てみろ。『金城瑠璃(かねしろるり)』。私はれっきとした日本人だ」

彼女の社員証には確かにそう書いてある。

「二人共、少し落ち着いて。皆が見てますよ」

そう言って喧嘩の仲裁役となったのは、茶色がかった髪を腰まで伸ばし、優しげな微笑みを浮かべた若い女性だった。

「そうですよ、今日は中途採用の方がオフィスにお見えになると聞いております。…さぁ、仕事に戻りましょう」

ガタイのいい男性社員が穏やかな声で言う。

「確かに、私としたことが大人げなかったな。(まい)嵐樹(らんじゅ)、仕事の邪魔をしてすまなかった。秋里(みのり)、話の続きは後だ」

見た目に反して流暢な日本語を話す瑠璃。

「分かったわ、瑠璃さん。後で話しましょう」

まだ言い足りないという顔で仕事に戻る。

「社長のこととなるとお互い一歩も譲る気はないみたいですな」

隣で寧々が呆れた顔でPCに向かっている。

「失礼します、玉木さん」

気付くと、先程の喧嘩を収めた女性が目の前に立っている。

「流転の國の白魔術師であり、ここでは白浜舞(しらはままい)と申します。…そろそろ、中途採用の方をお迎えに行く時間かと」

「そうか、そうだったね」

純は頷いて立ち上がる。

「あの…白浜さん、君ってさ」

「なんでしょうか?」

流転の國にいた頃とは随分印象が違う。

「確か…クリスチャンだよね?」

「はい、そうですが…社長のご命令とあらば、たとえ安息日であっても働かせて頂くつもりです」

キリスト教では日曜は安息日。働かない日。

舞は神様より社長を優先するらしい。

「玉木〜!遅れるわよ!」

秋里が純を呼ぶ。やはりこの世界でも彼女とはこのくらいの距離感なのか。

「分かったって!…行ってきます!」

「慌てると転ぶぞ。気をつけて行け!」

瑠璃もこんな調子である。

純は部屋を出ると、中途採用の社員を迎えに行くのだった。


なぜか向かうべき場所は分かっている。

「お待たせ致しました」

純を待っていたのはとても背の高い女性だった。きっと、180cm超えの嵐樹より高い。

「初めまして。本日よりこちらでお世話になります、影沢(かげさわ)と申します。どうぞよろしくお願い致します」

プラチナブロンドの髪にパンツスーツ姿の女性がそう言ってお辞儀する。

「玉木純と申します。これからよろしくお願いします。…早速ですが、貴女を社長室まで案内するようにと言われております」

「い、今から社長にお会い出来るのですか?」

影沢さんの目が輝いている。

「はい。社長にご挨拶したのち、オフィスへとご案内させて頂きます」

「畏まりました。よろしくお願い致します」

(黒魔術師もああ言ってたし、白魔術師もああ言ってたし、さっきの二人の喧嘩を見るに、社長はきっと姫だ。…ようやく会える)

この世界でも瑠璃と秋里は姫を巡って争っているらしい。純は隣を歩く長身の女性のネームプレートを見る。『影沢麗(かげさわれい)』と書いてある。

(そして秋里はこの人と恋に落ちるわけか…って、なんで僕はこの先の展開を知ってるの?)

ともかく、姫に会わないことには落ち着かない。ここは純が流転の國の前にいた世界にとてもよく似ているが、姫はどうなのだろう。

そんなこんなで社長室。ドアをノックする。

「どうぞ、入っていいわよ」

聞き慣れた姫の声に安心してドアを開ける。

椅子に座ったスーツ姿の姫が優しく微笑みながら二人を迎える。

ていうか、玉座の間が社長室に変わっただけで姫は何も変わってない。

「社長…!この度は採用頂き、誠にありがとうございます。貴女様のご期待に添えるよう、粉骨砕身働かせて頂く所存です」

シャド……影沢さんも何も変わってない。

「期待しているわ。分からないことがあったら何でも聞いて頂戴」

「はい!ありがとうございます!」

それから姫は純の方を向いて、

「純、ご苦労様。…後で話したいことがあるから第3会議室に来てくれるかしら」

「承知しました」

姫が目で合図を送る。

やはりそういうことなのだろう。


オフィスに戻り影沢麗を皆に紹介すると、純はすぐに第3会議室に向かった。

「早かったわね。さすがは私の秘書」

姫が微笑みながら純を迎える。

あれ?結局、社長秘書は純だったのか。

「姫、お会い出来てよかったです!…早速ですが気になっていることがあります。この場所に見覚えはありますか?」

「いいえ、私の知らない場所だわ。でも、どうやら日本であることは確かみたいね」

姫の言葉に純は頷く。

「実はこの会社、僕の元いた会社にそっくりなんです。なぜか同僚は流転の國にいたメンバーなのですが」

「…では、私達はまた違う世界に来てしまったのね。しかも、皆と一緒に」

二人の見解が一致する。

「姫…いえ、真綾様…」

この世界における姫の名前。

「僕達はこれからも一緒にいられますよね?」

「当たり前でしょう。貴方と離れて生きていくことなんて私には出来ないわ。…ねぇ、純。この世界でも、私は貴女を愛してる」

姫は椅子から立ち上がり、純の傍に行くと、そのまま彼を抱きしめる。

「僕もです、姫…。どんな世界にいても、僕は貴女を愛しています。ああ、姫…!」

夕暮れの社長室。

口付けを交わす社長と秘書。

退勤後は…言わずもがな。


姫の髪は変わらずベリーショートだった。

ジェイ(今は純)は、流転の國にいた時から、さらにその前の世界にいた時から、マヤリィ(今は社長)のことを「姫」と呼んでいます。

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