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第4話 お騒がせ後輩


「中学生と付き合っているのですけど、ちょっと心配なことがあるんです」

 電話に出たのは、若い女性相談員だった。

「へえ。どんなこと?」

「『卒業生による学校説明会』に去年、呼ばれたんです。熱心に訊いてくる子がいまして、帰った後、どこで調べたのか、ボクの家に電話があったんです。

『もっと詳しく聞かせてください』

 って」


 電話で長い間、話した。

「うわ、先輩の高校、行きたくなっちゃった。先輩、勉強教えてくださいませんか」

 結局、後輩の家に行くことになった。

         ☆

 後輩も母子家庭だった。母親は昼間、勤めに出ていた。

 後輩は薄いブラウスに短パンという軽装だった。熱心に質問してきた。


 二回目に訪問した時はすっかり打ち解けていた。

 心なしか、胸をはだけ、脚も大きく開いている気がした。つい、胸元に目が行ってしまう。短パンの奥にはパンティが見えていた。

「休憩しましょう。コーヒー()れてくるね」


 後輩は部屋を出て行った。

 改めて部屋を観察した。小さな衣装ケースがあった。一番上の引き出しに、きちんとパンティが折り畳まれていた。そっと手に取ったが、後輩が戻る気配がしたので、(あわ)てて戻した。

         ☆

 三回目。休憩しながらコーヒーを飲んでいると、後輩はいたずらっぽく笑って言った。

「ねえ、先輩。この前、私のパンティ触ったでしょ」

 Ⅹの顔が真っ赤になった。


「でも、先輩なら、許してあげる。中身が見たい?」

 いきなり、後輩は立ち上がって、ポロシャツと短パンを脱いだ。


 女性の体は見慣れているつもりだった。

 妹も母親も、風呂から出た時など、素っ裸で部屋を歩いていた。妹は小学校三、四年になると、さすがにⅩの目を意識し、全裸というのはなくなったものの、母親は相変わらず大胆だった。


 後輩はブラジャーを外した。Ⅹは息を呑んだ。次いで、パンティに手をかけた。

「先輩も裸になってよ」

 言われるまま、Ⅹは一糸まとわぬ姿になった。

         ☆

「あなたたち、まさか!」

 女性相談員は悲鳴に似た声をあげた。

「大丈夫です。避妊具を使いましたから」

 Ⅹが初めて口にした単語だった。Ⅹは不思議に落ち着いていた。


「そんなもの、持ち歩いてるの!」

「いいえ。後輩が机の奥にしまってあったのです」

 相談員の呼吸が速くなった。


「それで、何が心配なの?」

 相談員は気を取り直したようだった。

「ボクが行くたびに、後輩が迫ってくるのです。ボクはずっと罪悪感に(さいな)まれていました。そのことを話すと

『私のこと捨てたら、死んじゃうから』

 って」


 後輩は真剣だった。

 Ⅹの前に左腕を突き出した。リストカットした(あと)があった。

 Ⅹは後輩を抱きしめた。

 離すと、机からカッターナイフを取り出しかねない気がして、いつまでも力を緩めなかった。

         ☆

「その子、あなたに会えて、良かったのかもね。辛いことがあったのでしょうね」

 相談員は涙声になっていた。


「お姉さんは独身?」

 Ⅹは相談員に興味を持った。

「ええ、独身よ」

「なぜ相談員になったの?」

 しばらくして、重い口を開いた。


「私もね、手首に傷痕があるの。大学三年の時だったわ。彼氏に裏切られて。発作的に切っちゃったの。気が付いたら救急病院だった。

『あるいは、この世の人間ではなかったのかも』

 と考えると、ベッドでガタガタ震え出したわ」

 後輩の姿が重なった。


「あら、もうこんな時間。相談員はプライベートなことしゃべっちゃいけないんだけど、今日はつい‥‥。あれが、相談員になろうと決意した原点だったのよ。立ち戻らせてくださり、今日は本当にありがとう。また、お話したいわね」

 Ⅹはなかなか電話が切れなかった。


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