君が嫌いだった
私は君達が嫌いだった。
いつの間にか私の隣に居た君達が。
強引に私のことを変えていく君達のことが。
嫌いで嫌いで仕方なかった。
だから私は君達に呪いをかけた。
呪いは病気という形で君の体を蝕み、君達は一時死に瀕した。
苦しむ君達を見ても私は何も感じなかった。
君達のことが嫌いだったから。
けれど、君達はいつの間にか病を克服していた。
呆然とする私を尻目に君達はまた私を強引に変えようとしていた。
私は君達が嫌いだった。
私の体を蝕んでいく君達のことが。
病さえもあっさりと克服した君達のことが。
嫌いで嫌いで仕方なかった。
だから私は災いを呼んだ。
大地を揺らし、津波を起こし、嵐を呼んだ。
災いは君達を苦しめ続け、君達は一時死に瀕した。
苦しむ君達を見ても私は何も感じなかった。
君達によって傷ついている者達が数え切れぬほどに居たから。
けれど、君達はいつの間にか災いを耐える術を手に入れていた。
呆然とする私を尻目に君達はまた私を強引に変えていった。
私は君達が大嫌いだった。
私の体を弄んでいる君達のことが。
呪いも病も克服した君達のことが大嫌いだった。
だから私は自分が傷つくのも厭わずに君達を攻撃した。
君達以外の者達が苦しむことだって分かっていた。
だけど、君達が居る限り君は他の者達を苦しめ続ける。
だからこそ、私はせめて君達だけは滅ぼそうと心に決めて、命を削りながら君達を襲った。
呪いから病を発生させ、大地を揺らし、津波を起こし、嵐を呼んで、全身に張り付く火山を噴火させた。
けれど、君達はそんなもの涼しい顔をして耐えきった。
それどころか、君は仲間内で争いだした。
その争いは私が君達に対して行ってきた如何なる災いや行動よりも強く、私の体は見るも無残に変えられていった。
私は最早何も出来ないまま自分の体が君達によってぐちゃぐちゃにされるのを見つめていることしか出来なかった。
私は君達が大嫌いだ。
殺してやりたいほどに憎い。
いや、必ず殺しつくしてやる。
そう思い、私は自分の命を賭して君達を滅ぼすと決めた。
全身が無に帰す大爆発を持って、私の体に住まう君達諸共死んでやる。
そう決めた。
それなのに。
君達が次々と私の体から離れていくのが見えた。
君達は鳥でもないのに空を飛んだ。
いや、空を通り過ぎて宇宙にまで向かっていく。
確信した。
君達はきっと宇宙でも生きていけるのだろう。
私は呆然としたまま私の体から離れていく君達を見つめるばかりだった。
体が段々と熱くなる。
爆発が近づいているのだ。
あぁ、悔しい。
悔しくて仕方ない。
だけど。
だけど、認めてやる。
君達の勝ちだ。
私は。
いや、私を含めた全ての命は。
君達に負けたんだ。
そう理解した直後、私の体は爆発を起こし、私は敗北を噛みしめながら死んだ。
「見てください」
ロケットの船長が言った。
「私達の愛する地球の最期です」
ロケットの窓には地球を脱出した人間たちが愛する地球が消えていくのを涙ながらに見つめていた。
「あぁ……」
船長は何とか涙を抑えようとしたが無駄だった。
自分たちの祖先が生まれ、長い時を過ごした愛すべき地球が消えていく。
もう自分達が戻る愛すべき星はないのだ。
それが辛くて仕方なかった。
誰かが大声で泣きだした。
それを皮切りに人々は次から次へと泣き出した。
船長もまた泣いていた。
「さようなら、地球」
誰かがそう言うと同時に皆がその言葉を口にする。
きっと、地上を共に出発した他のロケットの内部も今、このような光景が広がっていることだろう。
「ありがとう、地球」
そう感謝と別れの言葉を口にしながら。
人々は死んだ地球を後にして未来へと向かった。




