ストリートプロ
「冷やすなら家でやれってんだろ! なんでもタダってわけにはいかねぇんだよっ!」
「少しくらい良いだろ!ってか氷のひとつふたつくらい対して被害もねぇだろ!」
どうやらこの店の店主と言い争っている奴がいるらしい。ツンツンとした髪型みたいだが、私には関係ないことだ。それよりも情報を得よう。
「賑わっている所申し訳ない。ここ数日内で冒険者……いや行商人でも構わない。それらしき人が酒場に出入りしなかっただろうか。」
私は他の席へ酒を提供しているひとりの従業員へと声をかけた。忙しいだろうに笑顔は絶やさず、小柄なもののその両手には大きなグラスを手に、てきぱきと業務をこなしているようだ。
「え、ええと……、少しお待ち下さいね。確か自称旅人だと言ってた人が今日……ああ、あの人ですよ。何かトラブルでも……ありましたか?」
と、黒いフードを目深に被る人物へと目を向けつつ答えた。
ナイスタミング。そう私は思いながら何も問題はないよと告げ、笑みを返した。従業員は何かを伝えたそうにしばらく身振り素振りをみせつつも特に意味は伝わってこず、謎だと軽く首を傾げてみれば深々とお辞儀をひとつ。そのままその場を後にし裏へと下がっていった。あの自称旅人と言う人物が何か危険なのだろうか。それを確かめるべく騒がしい店内に広がる人を避けつつ、端の席で息をつく相手へ声をかけた。
「いきなりの質問ですまない。貴方を旅人だと伺い声をかけさせてもらったのだが…間違いはないだろうか?」
単刀直入に質問をした。回りくどいやり方で距離を探る時間はないからだ。
「あー……そうさ。私がさすらいの旅人。雷光の紅蓮氷竜……ラティさ!よく私が見つけられたね?その情報収集能力、さてはスカウトマンかな?」
声をかけては少しの間が開きながらもフードを捲り声を返してきた。オッドアイと言うものなのだろう、片目ずつで色が違い左の眼は夜道でも照らせそうなほどに明るい金色の眼。右の眼は透き通るほどに澄んだ宝石のような水色の目だ。フードを被っていて気づかなかったが髪も長く、白色の軽くウェーブがかかった髪で、目も少し切れ長で……動物で例えるなら猫が近いのかもしれない。……いいな、誰かを例えるときは動物を例としようか。
「いや違う。でも雷光の紅蓮氷竜って言葉は初めて聞いた。もしかして何か凄い人?」
私は期待の眼差しで視線を向けた。このタイミングでこんな異名の人物に出会えたのだ、これは神が私に高みへ至れと伝えているに違いない。それに綺麗だ、約得。
「んー……凄いのかもねぇ? でも聞きたいことがあるなら答えてあげちゃうよ?私が知ってる範囲内で、だけどね?」
自信があるのか自らの胸をトンと手でならしつつ答えた。話が長くなりそうだ、私はそう思うと先ほどの女性を目で探し席へと来てもらった。飲み物のひとつでも入れながら口説こうと思い酒を2つ、勿論2つとも雷光の紅蓮氷竜様への貢ぎ物だ。
「んふ、悪いねぇ。こりゃあ情報全部持っていかれちゃうかな?」
笑みを浮かべながらも少し不安げな従業員とは別に、奥で店主と言い合っていた者は決着がついたようで静かになっていた。店の外から叫び声が聞こえるようだが、今はそんなことよりこの人との会話を大切にしよう。野外でみっともなく騒ぐのは獣の類だけで充分だ。