もっと、こう
「ねぇ、呼ばれたの私だけじゃないの?何で他の人も呼んでるの?もしかしてタポルを先に呼んでその次に私とかじゃないよね?私がクラリスの一番だよね?」
曇ることはない真っ直ぐな瞳を此方に向けながらもその眼に輝きは無いように思える。しかしこれがレインの魅力のひとつにもなるのだろうが、二の次にしてしまったことは事実な為に誤魔化しようがない。後から来るであろう二人に即絡んでしまえば本題にも入りづらそうだと思い。
「大丈夫だよ。誰とも競い合わせてないし、レインは私の中で特別だから。二番にも三番にもなりようがないよ。」
こんなときはそっとしておくに限るのだけれど、他にも呼んでいるからこそ冷静になってもらわないといけない。確か、と先ほど胸元へ押し込んだ地図の奥へと手を入れると金貨の入る群青色の袋の紐を解く。その乳白色の紐を相手の手首へゆるりと巻き付けてはひとつのアクセサリーのようにしてみせた。
「私の使ってたものの一部。誰にでもしているわけじゃないよ?」
そう伝えては先程まで此方を見ていた視線は途端に自らの手首へと向け、忙しそうに眺めては嬉しそうに足を踊らせ距離が少しと開いた。笑みを此方に向けては
「こんな大事なものもらって良いの……?ありがとう、大切にするからね!」
その笑みを続けてくれるのならばこれでいい。あとは美味しいものでも食べれば機嫌良く過ごしてくれるだろう。とはいえ、まだ暫くあとの話になるだろうけど。
そう会話を続けているうちに遠くから鐘の音が鳴った。今が17時、約束の時間となった。
……鐘も鳴り終わるか思うと少し先、建物の曲がり角から黒ずくめの服には似合わない主張豊かな赤髪の人物、そうトサーロだ。物静かで何考えているかわからないものの悪い人ではない。知らないことでもそれなりに調べてくれる、飽き性なところはあるけれど、凝り性。つまりよくわからない。
「……やぁ、ここで良いんだね。今から診断士に見てもらいに行くのかな?」
本を片手に呟いてみてはチラリと此方を横目に読書に走ろうとしている。今日が診断士が来る日だとは知っていたものの彼は結果を聞きに行こうとはしなかったようだ。それほどに知識を得るのが好きらしい。
レインはトサーロを一度は見ながらも特に何かをすることはなく私の背へ移る。一言ぽつりと何かを呟いた気はするが聞こえなかったのでセーフだろうか。
「いや、もう既に結果はもらったよ。とりあえずは仲間を集め、しっかりと誰かに今の実力を見てもらうようにとの事だったな。」
昼間の診断士の言葉を思い出しながら私は言った。
「そこで昔から私のことを知っているレインやトサーロに来てもらったわけ。……ちょうどオッズさんから素材回収の依頼も貰ったから、私の旅に付き合ってもらえないかな。」
地図を取り出すと場所の確認ができるようにと目の前へ広げ開いてみせた。
背へと回っていたレインはバッ、と飛び出すとその地図をいの一番に見ようと全力で視界に映そうと顔と地図の距離を詰める。トサーロは軽く息を付けば本をしまいながらゆっくりと地図を覗き込む。どうやら2人に興味は持ってもらえたらしい。
「私、行く! 行かない理由なんてないから!」
「まぁ……本で見たものより現物を見ればより深く知れるからね。いいよ。」
よし、これで私の第一歩が始まることができた。前線は私が何とかするとして
「ふたりとも……ありがとう。今日今から向かうと言うわけじゃないんだけれど、連携は取れるようになっておきたいんだ。だからなにか得意なこと、教えてもらっていいかな。」
レインは魔法学校に居る。後方から合間に火力でサポートがあると隙もカバーしてくれるだろう。トサーロには本から得た知識がある。敵の苦手なものや急所、異国の地の情勢などそんな情報を多く持っているに違いない。
「私、ご飯美味しく作れるよ!」
「……手先が器用、かな。」
……、……??