しなびたヘッド
どれくらい走っただろうか。追っては来ていない、足音も聞こえない。これは勝ちだ、俺の勝利だ。そう思った時には既に汗だくになっていた。トレードマークでもあるツンツン頭は汗でよれて頭に張り付いている。
「ったく…、あとはトサーロだな…っ。早く済ませて休みてぇ…。」
ぼやいてはみるものの一人では何も変わらない。となればさっさと片付けてしまうのが一番だと俺は歩き出した。幸いトサーロが居る場所は分かっている。この時間帯はだいたい町の図書館に居るのだ。
俺は周囲を警戒しながらも歩みを続け、町の図書館へとたどり着いた。魔法学校とは違い木造の壁はそれほど頑丈とは思えないものの、築年数で言えばこの町でトップかもしれない。それほどに俺の親父も、爺さんも、そのまた上の爺さんも足を運んだことがあるらしい。
重い扉を押して開く。流石にさっきの今で同じ間違いはしない。俺は静かに中に入ればゆっくりと辺りを見回しつつ扉を後ろに室内へ入った。床がミシミシと軋む音を立てながらも奥へと進めていく中、棚には【身につくスパイス】【世界のパワー自慢】【日々鍛錬】そう言った様々な本がきっちりと置かれている。このあたりは埃も被っていないから最近誰か見ていたのだろうか。
奥のテーブルへと目をやれば、ひとりぽつりと椅子に座る人物を見つければやっぱりなと頷くなり歩みを寄せれば静かに相手の背後から肩へと手を寄せ。
「よっ、元気してるか、」
「うるさい。」
スパァン!
この間1秒くらいだろうか。質問の答えも返されないままにいきなり右頬に衝撃をうけた。乾いた音は図書館に響き、それを遮る話し声や雑音も無いため俺の耳によく響いた。
痛みに耐え、その叩かれた頬を押さえながら相手の手元を見ると手帳を握っており、きっとこれに叩かれたのだろう。頬が赤みを持って腫れてきている気がする。
「ちょ……待て。……こっち来い……っ。」
悪びれる様子もない相手の前に立てばそのまま相手の手首を片手で取ると静かに図書館から連れ出そうと引き寄せる。それに抵抗をするでもないのか素直に引き寄せに応じると片手は頬を押さえつつも難なく連れ出すことには成功した。いや、これからが本題なんだが。
「……なんだい?タポルじゃないか。僕に何か用かな。」
当たり前のように手帳を懐へとしまい直し。黒色で全身を固めた衣類は図書館の埃も被っていたため、自らの手で軽く身体を払っていると小首を軽くかしげ俺を眺めてくる。碧眼で、乱雑に切ったであろう赤毛色、気だるそうな表情ながらもムカつくほどの整った顔立ちで町の女性から人気もある。ミステリアスとは言いようで、変人だということを俺は知っている。
「あー……、面倒くせぇ。とりあえずこんだけ、17時に広場に集合な。これクラリスからだから、ちゃんと来てくれよ。」
こういう何考えているかわからないやつは要件だけ伝えてあまり深く言わないに限る。あーだこうだと言うと疲れるし、何よりほっぺた痛てぇ。内出血してるんじゃねぇかってくらいに。
そう言うと俺は時間まで馴染の食事処で暇を潰すことにした。このまま店に戻っても怒鳴られるだけだし、せっかく出られたなら何か楽しいことの一つでもないとやってられないと思ったからだ。なのに。
「……タポル。怪我をしているようだね。腕の良い医者を知ってるんだ。そこで診てもらったほうがいいよ。」
……いや、お前がやったんだよなぁ……。優しいとは思うけど、犯人お前なんだよなぁ…。内心そんなことを思いつつ軽く手をヒラヒラと振れば大丈夫だと言うことを伝え、食事処で氷でももらっておくかと一息ついた。