タポルスター
「ったく…昔から人使い荒いよな…っ!」
そんなことを言いながらも俺は走る、走る。これでも足が速いことで町ではちょっとした有名人なんだ。
あいつ、クラリスとは小さい頃からの縁で。よく勇者ごっこに付き合わされたっけ。もしかして俺もー、だなんて思ったけれど去年の診断士からの言葉で家業継ぐべきだなんて言われてさ。自分じゃ似合わねぇって思うけど……これが無難なんだろうなぁ。
「っと、通り過ぎるところだった。あいつ居るか……?」
そう言うと俺は赤いレンガの壁で覆われた5階建ての建物の前で止まった。ここはクラリスが指定した一人、レインが居る魔法学校だ。遠くから見ても分かるほどに大きな建物で、この町のほぼどこから見ても把握でき。時刻を告げる鐘も備わっているからか町の人間からすれば無くてはならない建物でもある。
「さてさて、少しお邪魔しますよ……と。おーい!レインは居るかぁ!?」
扉を開くなり俺は大きな声を上げ周りを見回した。一階部分は生徒の休憩場となり、声を出したところで授業には迷惑をかけない、はずだ。が……探し人からの返事はない。手当たり次第にその場の生徒に声をかけていくも見つからず。すぐにはどうにもならないかと踵を返しその場を後にしようとする中。騒がしくしていたために部外者が入ってきたと噂にでもなったのか、大半の生徒が菫色ローブを着ている中。白いローブで身を纏う少女が人を掻き分けるように現れた。俺より小柄で、人混みに混じると見つけるのが難しいこいつが探し人であるレインなのだ。
「なぁに、部外者ってアンタだったの? すっごく迷惑しているんだけど!? それといきなり名前呼びで怒鳴り込まれたら迷惑だって思わないのかしら!」
俺の顔をみるなり明らかな怒り顔で言葉を続けてきた。金色の髪は日に照らされると飴色に煌めき、琥珀色の大きな瞳は黙っていれば本当に美人。怒らせれば理性のない猛獣のように止まらないので穏便に済ませるしかないのだ。
「わ、悪かったって。次があったら気をつける!ってかクラリスがお前のこと呼んでくれーって。これ伝言な!」
俺は手短に用件を伝えその場を後にする。逃げる、逃げる。呼び止められる前に足が動いた。こんなときに足が速くてよかった、お袋に親父にありがとうと素直に言葉も出るものだ。
「は、……はぁ!? クラリスが私のこと……って、早く準備しなきゃ!」
怒りの矛先を向けるところがなくなったのも束の間。呼び出しの相手がまさかの相手だと思うと、こうしてはいられないとローブを叩きつけるようにして脱ぎ。ローブの下は雑に黒のショートパンツ、紅色のシャツのまま魔法学校内の更衣室へと足早に向かう。そこから学校を出るまでに1分とかかっただろうか、その場にいた他の生徒たちはその場に残るローブしか見ていないと言う報告が多数だったようだ。