鉄の香り…?
「らっしゃい!どうしたクラリスちゃん、何か入り用か?」
この人はオッズさん。友人の父親で、とてつもなく身体つきが良い大柄な男性で愛想もいいからか町でも人気の名店主だ。様々な素材に触れ、日々忙しく過ごしているからなのか不思議な香りがする人で、その匂いの元を探るべく一時は腹部に脇腹にと吸い付いていたものだ。
「……うん、今日は鉄だね。」
微かに鼻を鳴らすと一言ぽつりと呟いた。
「は?」
「いやなんでも。それよりあいついない?少し聞きたいことがあって来たんだけど。」
もっと探ってみようかと思ったものの今日はそんな予定で来たのではない。どうせ暇してるであろう怠け者な友人を狙ってきたのだ。面倒な事は先に済ませるに限る。
「ちょいと待っててな。おぉい! 裏でサボってるんなら表に来やがれ! かわい子ちゃん待ってもらってんぞ!」
そう言って裏へと向かう背中を眺めた。立派だ。筋肉は発達しており、火も扱うからかいい具合に肌も焼けて逞しさが際立っている。私ももっと鍛えればあそこまで発達できるだろうかと考えている中30秒ほど。
「かわい子……! ってなんだよクラリスか……。何か用事かよ。」
筋肉隆々な人の後に現れたこの痩せっばちツンツン頭はオッズさんの息子のタポル。ひとつ年齢は上で去年診断士に結果をもらったら家業を継ぐのが1番と言われ。オッズさんの下で働いている、ってわけ。でも一向に鍛冶の腕は上達しない、裏でサボってるってオッズさんも嘆いてたっけ。だからか肌も焼けず、細身、無愛想、無臭。まぁどうでもいいか。
「用事が無かったらわざわざオッズさんに呼んでもらわないから。……少し顔を貸して欲しい、後はレインとトサーロも呼んで広場に来るように伝達お願い。」
後半になるに連れ少し口早になった。喋る事は別に苦痛ではないもののこの後にまだ大事な用があるのだ。願望は手軽に済ませるに限る。
「いやなんで俺が……、お前がいけばいいだ、」
「行けるよね。サボってるんでしょ。」
話終わるより先に言葉を遮ってしまった。それほどに今は優先したいことがある。
「……わかったよ。その代わり集めたらちゃんと理由を教えろよな! 時間はこの後17時。忘れるなよ!」
そう言うと細身な身体は面倒くさそうに店から飛び出しその場を後にした。タポルに頼んだのにはちゃんと理由がある。足が速いから。……それだけ。
「……あぁ?タポルのやつ出ていったのか? ったく、外に行く元気あるなら仕事のひとつくらいやってもらいてぇんだがなぁ。」
裏で作業でもしていたのだろうか。汗を額に滲ませながら店主は自らの息子に悪態をつきつつも再度現れてくれた。
「……さっき急な用事をが出来たって出ていったよ。大変だね。」
嘘ではない。ちゃんと真っ当な理由があるからタポルとしてもサボりやすくはなるだろう。
「そうかぁ?まぁいいさ、どうせ戻ってきたらやることが増えてるだけだしな! んで、これで用事が済んだか?店の中のもんは好きに見ていって構わねぇが、あいつが抜けた分裏で仕事させてもらいてぇんだけどよ?」
そう言うと片手に大きな槌を持ちながら肩へひょいとかける。筋肉が盛り上がる。筋が良い。
「ん……オッズさん、秘密のお願いがある。私の装備を作ってほしい。」