昨日の味方でも今日は敵
私は耐えた。焼かれるその身から漂う異様な香りに脳を侵食されながらよく頑張ったと思う。
そう。朝食はカットした。あれを食して毒状態になるくらいなら空腹のままでいたほうがよほどマシ。道中で水分を取るくらいで十分だろうと自らに言い聞かせればひとりでに水を汲みあげ、その川で酔い覚ましにと顔を洗い流す。
冷たい川の水は眠気、異様な臭気を追い払うには十分……ではなく。先ほど乱獲されていたからか異質な魚類が水面からでもわかる程度にはこちらを眺め、警戒しており。下手に水面に手を入れれば噛みつかれるのではないかと思えるほどに敵意を感じた。
「いや……駄目でしょ。あれ、もう魔物だし。こうして敵が増えていくんじゃないの……。」
魔物の原点を勝手にわかったような気がすれば万全とはいかない体調のまま荷物をまとめ、さっさと依頼を済ませようと意気込んだ。
そんな中、目覚めたレインとラティは先ほど焼かれていた串に刺さる魚の身を切り離しながら食していた。
「これってあれよね……、田舎に行ったら絶対食べたい魚ランキングに毎年ノミネートされている伝説の魚、コマグギョ……。食べごたえ十分じゃないの……。」
「でしょ?この弾力のある身と、独特な香りがクセになるんだよねぇ……。」
バリバリもぐもぐと頬張る2人の様子を遠目で見れば、もう魔物に近いんだろうなぁ、いやもしかして魔族かなんて呟きつつも野生にいつでも変えれそうなタフネスに感心してしまった。いや、むしろ感心させてもらった。
「……食事をしている所申し訳ないけれど、今日中には帰れるようにしたいの。落ち着いたら出発の準備をしておいてもらえるかな?」
私がそう言うと2人は無言で手を挙げてくれたので同意を得られたように思った。よし、あとはくたばってしまっている2人だが……生きてるだろうか。
「……トサーロ。起きて。大好きな本、入荷しているよ。」
私は気を失ったままの相手の耳元で小さくささやいた。どうやら息はしているようなので、朝食にと口元に新鮮な書物を置いておいた。魚の匂いよりよほどトサーロには良いものだろう。
「タポルは……どうしようか。起きていても寝ていても特に何もないんだけれど。騒がしいのは嫌だよね。」
相手に近寄りつつかがみ込みながら小首を傾げ考える。起こしたところで騒がれると厄介だし、かといっていざという時に毒見役がいないのも困る。そう考えていればタポルの上着を乱暴に奪い取ると相手の視界を奪うように目元に巻き付けた。驚かせないために恐怖心を奪おうと思ったからだ。我ながらナイスなアイデアだと思う。
「よし……あとは拘束しておけばいいか。ラティがそこは適任だろうね。」
特にタポルに声はかけないままその場を後にする。ほら、トサーロがすでに起きて文字に食いつき始めていた。
すぐに出発できそうな様子に私は屈伸に背伸びと軽い準備運動を始める。負けられないよね、この戦いも。




