仮称だって異名だって
あれからどれだけ時間が経っていただろうか。オッズさんの気持ちになりながら私は泥で木刀を洗いつつ合間にはスライムを叩きのめし平たくしていた。スライムの残骸はレインがキレイに洗っていくと、青く艷やかな皮を折りたたみミルフィーユ状にすれば上から岩を置き水分を飛ばしている。トサーロは近くの木陰で本を読んでいる。確か図書館から持ち出した本だったか……応援の書、前編なるものだった。なら中編だとか後編だとかあるのだろうかと思いつつ私は健康な汗を流していた。
「ふぅ……これくらい磨けば打撃に斬撃にと使えるかもしれない……」
磨き続けた木刀は木材で作られているものの魔力が練り込まれ、刃も鋭く研ぎ澄まされていた。軽く振るだけでも先ほどより空気の裂ける音が違うように感じる。
「うんうん、上出来だねぇ……。それじゃあ早速、実戦といってみるかい?」
そう言えばローブの懐から魔力のこもった書物を取り出す。魔導書と言うものだろうか。開けばその1ページを指でちぎり宙へと放てば、薄っぺらな紙に描かれていた四足歩行の獣。狼をその場に繰り出してみせた。
「ほらさっきのスライムなんかよりよほど手強いよ?これに勝てないようじゃあ洞窟なんかにいかないほうが良いからねぇ。」
魔物としての本能なのか此方を視野に入れると真っ直ぐに駆けてくる。低い体勢で飛びかかろうとする狼の前へと私はその木刀を力任せに大地へと突き立てた。犬も歩けば棒に当たるとはこのことだろうか、そのまま此方に襲いかかろうと飛び込んできた狼の口端から真っ二つに両断されてしまうほど切れ味鋭く、生半可な剣よりよほど上等なものになってしまっていた。
「乱暴な倒し方だねぇ。ま、素早い相手にも対応が出来そうで安心した。そんじゃレベルアップもそこそこに次へと向かいますかっ。」
怪しげな魔導書をしまい込みつつも黒いフードを目深に被り直せば背伸びをしつつ荷物や有機物を魔法で浮かせ始めた。
「いや貴女っていったい何者なの……。魔物を実体化しているのか紙に閉じ込めているのかわからないけれど……只者じゃない。どこでそんな力を?」
無害そうに笑みをこちらへ向ける様子に私は警戒しながらも尋ねてみた。了承もしていないままに敵を此方に向けられれば身構えてしまうのも当然だろう。深く突き刺した木刀を地面から抜き取りつつ目の前へと構え直した。
「おや、言わなかったっけ?私は雷光の紅蓮氷竜……ラティ。忘れん坊は嫌われるぞっ?」
きれいな瞳を此方に向けてはウインクを返す。……やはり何処か凄みのある人だと言うことしか分からなかった。




