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王のカボチャ

だだっぴろい畑の中、鋼鉄の巨人クリケットは佇んでいた。

何人かの村人たちが畑を見物し、お互いに話をしているが、その中心はクリケットではなかった。

噂話の中心、それはクリケットの真横に育っている巨大なカボチャだった。

この畑の主はカボチャを育てる才能があった。今年のはとにかく大きく、その大きさは横に立つクリケットの膝に届こうとしていた。

畑の主によるともう少し大きくなるらしい。

「噂には聞いてたけど、こんなに大きいなんてね。 どんな味か食べてみたい!」

ドリーが目を輝かせながらカボチャを眺める。

「いいか、俺たちはこれをはらぺこドラゴンから守れってこの国の王から頼まれてるんだ。

食ったらドラゴンと同じく討伐対象だぞ。」

ホムンは冗談交じりで言った。こういう依頼には、冗談も言いたくなる。

この国では年に一回、国王主催で王子の誕生日にある祭典が盛大に行われる。

それがビックパンプキンバースデーだ。この祭典の歴史は少し古く、ここの国王がまだ子供の時に彼の父にあたる先代の国王が始めたらしい。父親がカボチャ嫌いの子供のために誕生日に国中から巨大なカボチャを集め、驚かせたことが始まりだと主催者は当事者は語ったらしい。

全く、目の前のカボチャのような親の愛だ。そして、親の愛を向けられた子はこの世界で悪魔の次にカボチャを嫌っていたが、この日のためにカボチャを育ててくれた農家の努力とその成果を誇らしげに見つめる瞳と巨大なカボチャを見て驚く民衆を見て王とは何かを悟り、彼の2番目の敵と和解を決意したと国王に即位したときに、そして子供が一つ大人になるたびに民衆に語り それは盛大な拍手と共に迎えられ今では王室の逸話の一つになっている。

この目の前の巨大なカボチャは現国王の仇敵であると同時に彼に王の道を示した恩師ということになる。

だが、その巨大な恩師が次々とドラゴンに食い殺される事件が起こった。

この不届きものの討伐のため、仕事の腕を見込まれたのか、たまたま近くにいたせいかホムンとドリー、そしてクリケットが国王の依頼で呼ばれたのであった。

ホムンは小さくため息をついた。

横では珍しいものが大好きな彼の相棒が全身で喜びを表しながら感嘆のため息をついた。

「こんな大きなVIPの警護は初めて! いや~光栄、光栄!」

全くその通りだドリー、これで機鋼兵たちがたむろする酒場で聞こえるどの武勇伝よりも笑いが取れる。

今年一番の笑いものだ。酔っぱらった連中に カボチャの馬車の乗り心地やらカボチャの王様のありがたい説教は何だっただの何年もジョークのネタにされるだろうさ。

「まあ、騎士様にはあまり名誉な仕事とは言えないかもしれませんが、ここにいる時ぐらいはゆっくりしていってください。」

このカボチャの育ての親は半ばホムンの思いを悟ったように、だがそれでも嫌味一つも見せず歓迎した。

「ありがとうございます。」

ホムンは自分に対するこの農家の好意に心から感謝した。そして彼の言葉で自分の仕事を思い出し、こう付け加えた。

「被害を抑えられるよう、できる限り協力はしますよ。」


カボチャの農家ということもあって、夕食はカボチャ一色であった。

ホムンはドリーがいなければ、彼が錬金術師の研究所で兵器として扱われていた時と同じく、雑穀だけを食して生きていけるぐらい食事に大して興味を抱かないほうだった。

味がなくても、動くために必要な材料を摂取できればいい。そのための調理方なら知っていた。

だが、相棒は決してそれを許さなかった。

彼女は毎回、限られた食材から手の込んだ料理を作り 彼に食べさせる。

そして、ドラゴン退治に赴く先々でその地域の料理を食し、作り方を学んでいる。まるで研究家だ。

その彼女がいつにも増してこのカボチャ料理について作り方やコツを嬉々として農家の婦人に聞いている。味が相当いい料理であるのは間違いない。

ホムンは料理については好みはとくにはないが、このカボチャ料理はかなりの品数だが、どれも違った味わいで飽きずに食べていられる。ここの料理人もドリーに負けず劣らずの研究家、いや道を究める求道者か。そんなことを思いながら、食事を口に運んでいた。

小さな揺れと風が家を伝った。

「いや、カボチャはデカくても家は小さいんですよ。畑の方が大変でねぇ。」

農家は笑った。

ホムンは農家の気遣いに答え、作り笑いで返そうとしたがその揺れが風のせいではないことを悟った。

徐々に揺れが大きくなる。

危機が揺れる音、鳥が飛び立つ音・・・。

「様子を見てきます。この近くに小さい砦があったはずです。村の皆さんに声をかけて、逃げる準備をしてください。」

ホムンは静かに、緊張感をもって指示をした。

そして彼はドリーを見つめた。

ドリーは静かに頷き、二人は外を出た。

暗い森を見渡すクリケット。そのコックピットの中でドリーは探知魔法でドラゴンの位置を探っていた。

「大きさは私たちと同じくらい。手前の茂みに潜んでる。まるで敵に襲い掛かる瞬間を待っているようよ。」

ホムンはドリーが伝えた情報と襲われたカボチャの情報から自分が戦おうとしている敵について分かっている数少ない情報があった。かなりの力がある。

ホムンは静かに息を吐いた。

クリケットはその腕についた光の剣を抜こうとしていた。

力で押されても、剣であれば・・・。

静けさを割く咆哮と共にドラゴンが襲い掛かってきた。

クリケットはドラゴンを振りほどこうと応戦した。

しかし、ドラゴンは二の腕を抑え、押し倒した。

クリケットはドラゴンの腕を振りほどこうと全身でもがき続けた。

ドラゴンの猛攻が続く、クリケットを巨大な獲物だと思ったのか食い殺そうと噛みつき始めた。

隙を作り光の剣で封印する。それで戦いに決着はつく。

だがその隙を作るためにはこの状況では馬力と素早さが足りない。噛みつきよけるためにもがき続けるのが精いっぱいだ。

このままでは一瞬の油断でクリケットがやられる。

ホムンは、ドラゴンの牙をよけながら対抗策を考えていた。だが、焦りが彼の理性を支配し始めていた。

彼の手元に一瞬の狂いを与えそうになるくらいに。

ドラゴンに隙が見えた。噛みつきをやめ、力を緩めた。

「ホムン!」

ドリーが叫んだ。次の一瞬で勝負を決めれる隙はあったが彼はそれを生かせなかった。

ドラゴンはカボチャのスープのにおいにひかれていた。

巨大なカボチャを育てていた農家の夫婦が台車に乗った大鍋を松明で照らしながらドラゴンに手を振っている。

「お前さんの好きなかぼちゃだ!こっちに来れば食べれるぞ!」

その夫婦の叫び声が聞こえた時、ホムンは思わず叫んだ!

「なにやってるんだ!早く逃げろ!食われるぞ!」

そのクリケットからの呼びかけに農家は大声で応えた。

「このカボチャは私たちが愛情をもって育てた子供だ。晴れ舞台の前に、このオオトカゲなんかに食われてたまるか!」

ドラゴンはその夫婦の方を向いた。巨大な化け物に啖呵を切った勇ましい夫婦に答えるのが目的ではなかった。

ドラゴンは舌なめずりをした獲物を固い鉄の巨人ではなく、カボチャと小さいが味の良い2つの肉の塊にしたのだ。

ドラゴンはゆっくりと夫婦のもとへ歩き出した。まるで楽しみに震えるかのように。

夫婦はドラゴンに立ち向かおうとした。だが、それが近づいてくるにつれ、自分たちがその巨体に立ち向かうすべがないことを徐々に思い知った。

せめてあのカボチャだけでも・・・。

彼らの勇気では、近づいてくるドラゴンをにらみつけて立っていることしかできなかった。

ホムンは力を込めた。この夫婦が与えた隙は戦況を覆すには十分だった。

そして、その勇気はクリケットが戦うのに十分すぎる力を与えた。

「させるか!」

クリケットはドラゴンのしっぽを掴み大きく振り回した。

そして、ドラゴンを森の方へ投げ飛ばした。

夜空へ投げ飛ばされるドラゴンに向かい、クリケットは光の剣を構えて飛びあがり、ドラゴンに向かい切りかかった。

その姿は夜空にかかる光の虹のようだった。

そして後に残ったのは月夜に照らされて輝くドラゴンの形をした濁った結晶だった。


後日、ビックパンプキンバースデーに飾られたその夫婦の巨大なカボチャをホムンは眺めていた。

ホムンは現国王がなぜあれだけ嫌がっていたカボチャと和解し、ビックパンプキンバースデーを子供のために続けようと思ったのか その理由がわかるような気がした。

そして相棒のドリーが今にもあくびをしそうに聞いている現国王の演説は、それを誇らしげに聞く巨大カボチャの親と彼らの子供に称賛のまなざしのを向けている民衆に向けられた賛辞なのだ。

ホムンはふと思った。これは名誉ある仕事だったと。それは彼自身とても意外だった。



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