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6話 チート能力

 私って本当に何で召喚されたのかな。聖女としては必要されなくて。異世界人の知識も必要とされてなくて。魔法の才能もなくて。

 考えれば考えるほど、気分が沈んでいく。


「はは。虚しいわ」


再び重いため息が漏れる。日本で働いていた時も、こうやってよく落ち込んでいた。

 たくさんの理不尽と、たくさんの見えない常識に振り回されて、気力も体力も削がれていく。

 やればやる程、自分のやり方が正しいのか不安で、がむしゃらに働く中で何かを落としてしまったような虚無感がするのだ。

 その度に理不尽に負けてたまるかと自分を励ました。その時のように今回もほっぺをペチペチ叩いて、自分に気合いを入れた。


「よしっ!」


 負けるな自分。

 くよくよしても何も始まりはしないのだ。

 少し落ち込んだらそれで終わり。

 前を向かなくては。

 そんな事を言い聞かせて、いつも前を向く。それは日本だろうと異世界だろうと変わらない。

 気を取り直したが、ユーリがいないのでは何をして良いかも分からず、暇つぶしに周囲を見渡してみた。

 よく見るとビーカーや試験管など、見覚えのある物が沢山ある。これも異世界人がもたらした物なのかもしれない。

 この世界には一体どれだけの異世界人が召喚されたのだろうか。地球の技術が至る所で見受けられるので、地球からは相当な数召喚されているのは分かる。

 キョロキョロと見渡していると、ふと、見慣れた物が目に入った。

 かぼちゃだ。

 まさかこの世界には知識や技術だけでなく食材まで持ち込まれていたとは思っていなかった。

 懐かしくて思わず手にとってみると、ずっしりとした重みを感じた。そうだ。これは包丁で切るのも一苦労するほど固いのだ。蜜柑みたいに手でぱかっと割れれば調理しやすいのに。そんな事を考えながら、かぼちゃにぐっと力を入れた。


 めきょ。


 簡単に割れてしまった。

 かぼちゃは見事なまでに真っ二つになっている。この世界のかぼちゃはこんなに柔らかい物なのだろうか。


「クロエさん、お待たせしました。一応この魔法部隊の制服着れば悪目立ちはしないでしょう…………て、何をしているのですか?」

「あ。ユーリさん。すみません、かぼちゃ、触ってたら割れちゃって」

「え。素手で割ったのですか?」

「は、はい。あ、あの、これ、私の元の世界にもあって、懐かしいな〜て触ってたら、つい。でも驚きました!この世界のかぼちゃは簡単に割れるんですね」

「そんなことありません。それも異世界から持ち込まれた物なのですが、固くてとても素手では割れません」

「え?」


 ユーリは開いた口が塞がらない様子で、じっとこちらを見てくる。

 やめてくれ。私はこんなに腕力はないんだよ。


「あ、あはははぁ〜」


 もしかして。いや、もしかしなくても。

 私の異世界転移特典って、この怪力ですか?


 マジですか。


 ぱっくりと真っ二つに割れたかぼちゃを手に持って、ぼんやりと見つめていると、何とも言えない複雑な気持ちになる。


「まさか聖女として召喚された貴方が腕力だけなんて想定外でした」


ユーリは必死に笑いを堪えていたが、私は泣き出したい気持ちでいっぱいだった。


「いやぁ、見事に真っ二つですね」

「あんまり見ないで下さい」


ユーリが楽しそうにマジマジとかぼちゃを見つめてくる。

 そんなに見ないでほしい。

 私は穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだった。

 その時ドアがノックされ、扉が開いた。

 そこにいたのは、セシリーだった。


「ユーリ、どうだい?」

「セシリー。面白いことがわかりましたよ」

「面白いこと?」


セシリーは首を傾げながら、奥の方にいる私へと視線を移した。そして私が持つ真っ二つのかぼちゃを見てギョッとした。


「そ、それは君が割ったのかい?!すごい魔法じゃないか!」

「ふふっ。そう思いますよね」

「え?違うのかい?」


セシリーは訳がわからないという表情をしている。私だって訳がわからない。今からでも遅くないから誰か嘘だと言ってほしいくらいだ。

 そんな中でユーリだけが楽しそうだった。


「ちょうどフェリシア班長に報告にいこうと思っていたところです。セシリー、かぼちゃを一つ、用意してもらえますか?」

「かぼちゃ?」

「彼女の実力を目の前で見ようと思いまして」

「わかった。すぐ用意して持って行くよ」

「ありがとうございます」


セシリーはなんとも言えない表情で私を見つつ、部屋から出て行った。まるで化物を見るかのようなその視線が辛い。


「さあクロエさん。その軍服に着替えたら部屋から出てきて下さい。フェリシア班長のところへ行きましょう。」

「は、はい」


ユーリに手渡された軍服は、セシリーやユーリが着ている物と同じ形だった。もちろんスカートではなく、パンツスタイルである。

 これからどうなるのかな。考えても仕方ないと思いつつ、どうしても気持ちを切り替えることはできなかった。




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