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5話 魔法適性検査

 ユーリは棚の中から丸い水晶を取り出した。

 思ったよりも見覚えのある平和的な道具が出てきて、ちょっと安心した。


「まずは属性調査を行います」


ユーリが私の前に水晶玉を置いた。私はじっとその水晶玉を覗き込んでみる。何か見えるかとも思ったが、何も見えない。どうしたら良いのか分からず、色んな方向から水晶玉を眺めてみた。


「この水晶はどんな属性を持っているのかを確認する道具です。こうやって、この水晶に手をかざしてください」


ユーリが水晶の上に手をかざすと、水晶玉は透明から緑色に変化した。その美しさに目を丸くしていたが、それだけではなかった。

 ふわっと優しい風が起こったのだ。

 そよ風が頬を撫で、部屋中を駆け回っていく。

 その幻想的な風景に、思わず見惚れてしまった。


「このように手をかざせば、自分に適した魔法が発動します。見た通り私は風魔法が得意なんです」


ユーリは水晶から手を離し、そう説明してくれた。こんな物を見せられてしまっては、自分も早くやってみたくて仕方なくなる。ドキドキと胸を高鳴らせて、恐る恐る手を伸ばした。

 ゆっくりと水晶玉に手をかざし、緊張した面持ちで水晶玉の反応を待った。

 待っている間、ずっと鼓動がうるさい。

 早く知りたいような、夢を見ていたいような、そんな気持ちでいっぱいだ。


 待って、待って。




 待って、待って、待って。





 ……待って、待って。




 どれだけ待っても……。





 反応はなかった。





「あの……かざすだけでいいんですよね?」

「そうですねぇ」


あまりに反応が無さすぎて、思わず問いかけてみた。何かやり方を間違ってしまっただろうかと思ったが、そうでもなかったようである。

 ユーリも目をパチクリさせている。


「……」

「……」


 二人ともしばらく水晶玉を見つめてみた。

 何かの間違いか、不具合だろうか。いや、でもさっきユーリがした時はちゃんと発動したのだからもし問題があるなら、私のやり方がまずいのだろう。 

 よし。水晶玉に集中してみよう。

 今度は水晶玉のことだけを考えてみた。




 けれど反応は無い。




 うーん。何も変わらないなあ。

 残念なことに、待てども待てども水晶玉に反応はなかった。


「あの、何か、力込めてみてもいいですか?」

「そうですね、やってみてください」


 悪あがきとしか言いようがないが、やらないよりはいいかもしれない。

 けれどやっぱり反応はなかった。


「……」

「力、込めましたか?」

「い、一応」

「そうですか」


 ユーリの素っ気ない反応が心に刺さる。

 だが悲しいことに全く反応がない。


「適性、ありませんね」

「え!?」


ユーリはそう言い切った。あまりにあっさりはっきりとそう言い切ったので、驚いてしまった。


「これだけやっても反応がないという事は、どの魔法にも今のところの適性はないという事です」

「そ……そうですね」


想像していたものとは全然違う結果に、肩を落とした。異世界人は皆特異な能力を持ってやってくる、とフェリシアから聞いていたので、余計ガッカリしてしまった。


 え?こういうのってチートじゃないの?

 現実って厳しいなあ。


 聖女として異世界に召喚されたのに、いらないどころか正直邪魔な存在の異世界人。聖女としても、異世界人としての知識も望まれていないのに、理不尽に呼び出されてしまったが、せめてチートでもあれば何とか生きていけるだろうと楽観視していた。

 けど残酷にもそんな都合の良いチート能力なんてないと判明してしまった。

 日本にいた時も社会人として幾度も理不尽な目に遭ってきた。

 まさか異世界にきてまで、理不尽な目にあうなんて思ってもいなかった。

 嗚呼、もう笑うしかないかな。

 そう思って力なくヘラと笑ってみた。


「気にしないで下さい」


しかしユーリは面倒臭そうな態度も悲しそうなものを見る目もしていなかった。


「魔法を使った事がない人の適性が分からないということはたまにあるんです。それでも魔力さえあれば、あとは努力次第で適性が出てくることもあります」

「そうなんですか!」


 一縷の望みが出てきた。

 私はワクワクした気持ちで次の検査道具を待った。ユーリが次に出してきたのはゴブレットだった。中には何も入っていない、ただの空グラスだ。


「では次はこのゴブレットに手をかざして下さい。魔力の量に応じてこのゴブレットに液体が注がれます」


先程と同じように、ユーリがゴブレットに手をかざした。すると、ゴブレットには緑色の液体が現れ、みるみるとゴブレットに溜まっていく。あっという間に緑色の液体が溜まったゴブレットから、手を離してユーリがにっこりと優雅に微笑んだ。


「これは簡単ですよね」

「……かざすだけですか?」

「かざすだけです」

「わかりました」


 何故か妙な緊張感で場が張り詰めていた。

 もし、何も起こらなかったらどうしよう、という不安でいっぱいなのだ。

 しかし、やってみない事には何も分からない。

 恐る恐る手を伸ばし、ゴブレットに手をかざした。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……っ」


涙出そう。


「ああ、もう大丈夫です」


 見事なまでに何も反応しなかった。

 もういい加減、泣いてもいいだろうか。

 ユーリも首を傾げている。


「……あの、適性は……」

「おや。聞きますか?」

「……っ。見ればわかりますね!」


一応確認しようかと思ったが、ユーリの困ったような表情から『魔力が多すぎて反応がない』みたいなどんでん返し等ないのだとわかる。

 属性もなく、魔力もないなんて。


「おかしいですね。異世界人には異常なまでの魔力があると文献にあるのですが」


ユーリが近くの資料を開いて、首を傾げている。フェリシアも同じようなことを言っていたので、本来ならそうなのだろう。

 だが何故か私にはイレギュラーなことばかりだ。俯いていると、ユーリが気を遣ってくれた。


「まあ、とりあえず、元気出してください」


ちょっと励まし方が雑だが、それでも気を遣ってくれるのだから、荒んだ心にじんわりと染みる。


「すみません。ちょっと荷物取りに席を外しますが、ここで待っていて下さい」

「はい」


ユーリが研究室を出ていくのを見送った後、私は大きなため息をつきながら机に突っ伏した。この研究室に一人残されて、さらに虚しく感じる。


 これ、あんまりじゃない?



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