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3話 転職希望


「昔々、この世界が混沌としていた時代。この世界には魔法使い族と魔獣族が住んでいました。魔力が元となっているこの世界では、魔力を多く含んだ豊かな土地をめぐって、この二つの種族は幾度も大きな戦いを繰り広げてきたのです。そんな戦い続きの時代の中、一人の強大な魔力を持った大魔法使いが現れました。その者の力は強力で魔獣族を圧倒していきました。その者のおかげで戦いは魔法使い族の勝利に終わりました。大魔法使いの力は戦いだけではなく多くの魔法使いを助け、魔法使い達から尊敬されていくようになっていきました。しかしある時、その大魔法使いは魔法を使い過ぎて魔力を暴走させてしまいました。大魔法使いの強大な魔力は闇の沼となり、人々を飲み込んでいきました。闇の沼に飲み込まれた魔法使い達は魔力を吸い取られ、魔法が使えなくなってしまったのです。このままではみんな魔法が使えなくなってしまう。そんな危機を感じた魔法使い族は、神様に助けを求めました。神様はその声に答え、異世界召喚魔法を授けて下さいました。膨大な魔力を必要とするその魔法は、多くの優秀な魔法使いたちによって発動され、見事一人の異世界の女性を召喚しました。その女性には膨大な魔力が備わっていました。かつて英雄と称えられた大魔法使いと同等の魔力を持つ彼女は、次々と闇の沼を浄化し、この世界を救ってくれたのです。人々は彼女を崇め、聖女と呼ぶようになりました」


昔話を聞いて、なるほど、と私は頷いた。


「そしてその聖女様が召喚されたのが、先程の塔なのです」


 だから私は聖女なのか。私はうんうんと頷いた。彼ら白装束の異様なまでの聖女への熱気は、間違いなくその伝説のせいだろう。


「召喚に成功した魔法使い達は、味をしめて異世界からの召喚を繰り返すことになります」


フェリシアは表情を少し暗くした。


「聖女召喚に味をしめた魔法使いたちは、何度も異世界召喚を繰り返してきました。そして、異世界にしかない知識をこの世界にたくさん取り入れていったのです。しかし、ここは魔法世界。異世界とは世界のつくりや根本が違います。異世界から持ち込まれた技術や物、知識は確かにこの世界を豊かにしてくれたましたが、それはこの魔法世界の崩壊を代償にしていました。新しい知識が世界の根源に反した物であるゆえに、世界は少しずつ綻び、今となってはこの世界はちぐはぐでぼろぼろな状態になってしまっているのです。魔力が豊富であったはずの土地は澱み、再び闇の沼が出来たり、さらには魔獣族が襲ってくるという事件までもが出てきている状況なのです。そのため数十年前に異世界召喚は禁忌魔法とされました。

 しかし、魔力の低い者たちは当然納得しませんでした。彼らは自分達の魔力が低いのは、かつての強力な大魔法使いの暴走によって生み出された闇の沼に飲み込まれたせいだと主張しているのです。だからこそ魔法を必要としない異世界の知識に縋ろうとして、密かに異世界召喚を試みて続けていました。異世界人は、我々にはない科学と呼ばれる知識を持っていたようです。その科学は魔法とは真逆の知識でして、この世界とは相性がよくありませんでした。科学を使い続ければ、我々魔法使いだけでなくこの世界そのものが崩壊する未来が待っている、だからこそ異世界の知恵に頼るわけにはいかないのです」


 地球の環境破壊の話に似ているようで、何とも居心地が悪かった。


「まあ異世界召喚には膨大な魔力が必要なんですけど、彼らは魔力が低いので、なかなか成功していなかったんですけどね。まさか今回成功させるとは思いもしませんでした」

「それは……私の運が悪かったんですね」


 そうとしか言いようがない。

 しかし話を聞く限り、世界崩壊の手助けをしなくて済んだようだし、良しと考えるしかないだろう。


「あの、私は元の世界に戻れるのでしょうか」


これですぐに元の世界に戻れるのであれば、何の問題もない。無事に帰れたら、ちょっと特殊な交通事故にあったとでも思うことにしよう。まあこんな話を他の人にする事は出来ないけれど。

 なんて楽観的に考えていた。

 しかし、返ってきた答えは私の期待するものではなかった。


「異世界人が元の世界に帰ったという記録は、実は読んだことがないのです」

「え!?」

「異世界人の皆さんは我々にとっては救世主のような存在でしたから、高待遇でしたので……。授けられた知識の記述はよく読んだのですが、それ以外の記述というのがほとんどないのです。ですから元の世界に帰ったかどうかは……」

「そ、そんな……」


 かつては良かっただろう。

 みんなから望まれて、自分の知ってる知識を披露して、さらに異世界特典もあるし、正直元の世界より居心地が良かっただろう。

 けど、今は違う。

 『え?異世界から来ちゃったの?』ていう雰囲気の中、自分の知識も望まれていない状況で、居心地の悪さ半端ない。


「と、とにかく、城の……いえ。うちの魔法部隊の資料室を探せば少しは出てくるかもしれませんし。まずはこのまま城へ向かいましょう」

「……もし何もなかったら、私はどうなるのでしょう」


フェリシアは何も言えず苦笑するしかなかった。無理やり作った笑顔が、私のガラスの心に深く突き刺さる。

 勝手に異世界に召喚され聖女だなんて言われても、私はどうせこの世界からは望まれていない聖女なのだ。

 そんなやさぐれた気持ちになっていった。


「ああ、見えてきましたよ」


馬車の窓の外には、中世ヨーロッパを彷彿とさせる城が見えてきた。普通ならば目を輝かせて喜ぶのだけれど、今はとてもそんな気持ちにはなれない。

 気分はどん底のままだった。


 早く聖女(仮)から転職ジョブチェンジしなければ。



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