5話 舞踏会の誘い
私はあれからファーリス様と頻繁に文通を交わしていた。
相変わらず彼は甘い言葉をしたためた桃色の便箋を定期的に送っていくれる。家族思いでマメでなんて素敵な人なんだろう。
そう自分に暗示をかけていた。
「そうだ、ファーリス様からあなたに招待状が届いていたわよ」
ハルネは持っていたのはネイビーに金縁の豪華な封筒でファーリス様のサインがしてあった。私は急いで受け取るとそのまま開いた。
「王家主催の舞踏会ですって。私はファーリス様の婚約者としてぜひ出席してほしい……きゃっ〜!」
あまりの嬉しさに私は招待状を抱きしめて駆け回った。
「これってつまり、王族の方がいらっしゃる場所に私を正式につれていくということよね?」
ハルネは優しく微笑むと「そうね」と答えてくれた。
「お兄様とハルネは?」
「一応、招待されているわ。2人の予定が会えば参加する。ふふふ、あなたの方が伯爵家の婚約者なのだから格上ね」
なんて彼女は冗談混じりにいうと私の頭をぽんぽんと撫でた。
「舞踏会までまだ日にちはあるし、一緒にドレスを仕立てたりしましょう?当日は大変になるわよ」
「そうね、やっとファーリス様に会えるんだわ」
「よかったわね。舞踏会のあとはファーリス様のお家に泊まっちゃったり……?」
「やだ、そんなはしたないわ!」
私は顔が熱くなった。婚前交渉なんてもってのほかだわ。なによりも、ファーリス様は「慎ましい」私が好きだとお手紙で伝えてくださっているのだし。
舞踏会が終わったら名残惜しいけど私は馬車で帰るのよ。まるでおとぎ話みたいにね。
「冗談よ。でも、結婚も近いのだからちゃんと覚悟しないとね?」
「覚悟って」
「ふふふ」
「もう、ハルネったら」
「さ、午後のお茶の時間もこの辺りにして舞踏会の作戦会議でもしましょ」
***
舞踏会の前々夜、私は荷物の最終チェックをしていた。舞踏会用のドレスに変えのコルセット。それから万が一のことを考えてドレスやアクセサリーをもう一式。
「お嬢様、もう3度目ですよ」
「ディーナ、なんども確認をしたいのよ。今回の舞踏会は私にとってもファーリス様にとっても重要なの。伯爵家の未来の妻としてはじめて王族の方や公爵家の方々とお顔合わせするんだから」
ディーナはにやっと笑うと
「大好きな殿方に会えるから、ですよね?」
「ディーナったら」
ディーナは「すみません」と含み笑いをすると私が満足するまで荷物チェックに付き合ってくれた。
大丈夫よ、私。
ファーリス様に実際にお会いすれば私の抱えているちょっとの不安なんてすぐになくなってしまうわ。
——彼が私より妹君を好きだなんてそんなこと絶対にないわ
「ディーナ、もう一回」
「はい、お嬢様」




