4話 文通
のどかな風景を見て、おだやかな領民たちと一緒に過ごしながら私の心の傷は癒えていった。数週間たつころには私も
ファーリス様は妹君想いの素敵な方なんだわ。
なんて思えるようになってきていた。
結婚をすれば毎日顔を合わせることになるのだし、仕方ないわよね。私はデイジーのお姉さんになるんだもの、少しは我慢しないと。
「お嬢様、今日も素敵ですね」
ディーナに褒められて私は嬉しくなる。
というのも、今度こその初デートに向けて私は自分磨きを頑張っているのだ。領民たちおすすめのオリーブで作った油でヘアケアをしたり、お肌のためにシェフに頼んで野菜中心の食事にしてもらったり……。ファーリス様に「素敵だ」と直接言ってもらえるように頑張らないとね。
「ふふふ、ディーナ。今日も付き合ってくれる?」
「えぇ、もちろん。お嬢様、コルセットはあれど腰は細いにこしたことはございません。今日も運動、でございますね」
「ありがとう。今日は日差しが強いし日傘と」
「あら、お嬢様。お手紙が届きましたよ」
私はその言葉にカアッと胸が暑くなった。見覚えのある桃色の便箋。ファーリス様だ。
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拝啓 愛しのミラ
やぁ、ミラ。
この前は申し訳なかったね。ミルホックから君のことを聞いたんだ。
君を泣かせるつもりはなかった。
ただ、君は我がファルケンハウゼン家の伯爵夫人になるんだから少しは忍耐強くなってほしい。
そんなふうに思ったよ。
デイジーは公爵夫人になるためファルケンハウゼン家を出ていくんだ。その前に家族団欒を過ごしたいという願いだったからね。
とはいえ、君を泣かせるつもりはなかったんだ。
ここに謝罪をさせてくれ。
PS
返事を待っているよ。君の近況を聞かせてほしい
愛しているよ
ファーリス
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「まぁ……ファーリスさま」
私は何度も何度も手紙を読み返し、不信感を心の奥底に閉じ込めるように「愛しているよ」の部分を繰り返した。
彼は私を愛しているんだ。
——大丈夫、大丈夫。
「ディーナ、お返事を書きたいから少し待っていてくれる?」
「えぇ、ごゆっくり、紅茶をお持ちしますわ」
「ありがとう」
私は駆け足で自分の部屋に戻ると、急いでペンを握った。
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拝啓 ファーリス様
こんにちは、ファーリス様
あの日のことはお気になさらないで。私も大袈裟に泣いたりして申し訳ありませんでした。
伯爵夫人になるための教養よりもあなたに会いたいという気持ちが先行してしまったの。
はしたないことだわ。
あなたが妹君との素敵な時間を過ごせたことを祈っています。
あなたにふさわしい女性になるため、もっと努力しますわ。
今度、あなたに会えることがあったなら素敵なお土産話をたくさん聞かせてくださいね。
PS
私も愛しているわ
ミラ
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何度か書いてはくしゃくしゃにしてを繰り返し、やっとできた手紙を封筒に入れた。シュッと薔薇の香水をふきかけたから、彼がこれを開けたら素敵な匂いが広がるわ。
私も彼と同じ匂いをつけて……。
あぁ、早く会いたいわ。
大丈夫、私を信用しているから妹君を優先しているだけ。
そうよ、きっとそう。
「ディーナ、これを出してきてくれる?」




