3話 楽しみにしていたのに
私はミルホックから手紙を受け取ると、カフェテリアの従業員たちの哀れみの視線を背中に受けながら建物の外に出た。
もう日は沈み始めていたし、風も涼しくなってきていた。
「あぁ、悲しいわ」
「ミラお嬢様」
ディーナがこちらに寄ってくると少し悔しそうにぐっと目を瞑った。
「ディーナ」
「お嬢様……こんなのひどいですよ」
「そうね、でも」
でも、の先が私は思いつかなかった。ファーリス様は私にはもったいないくらいの素敵な人だし幼い頃からの許嫁。だから彼を庇わないといけないのに。
「お嬢様、馬車へ」
私は足元がクラクラしてディーナに支えられるようにして馬車に乗った。
***
「私の大切な親友で義妹のミラに恥をかかせるなんて……!」
私は失意の中、ほとんど意識のない状態で家まで辿り着くと都市部であった全てを親友で兄の婚約者のハルネにお話しした。
ハルネは憤慨し、顔を真っ赤にしていたが私はまだ何も考えられなかった。
「でも……ファーリス様は妹想いで」
「いい、ミラ」
ハルネは私の肩をがしっと掴んだ。
「確かに、この手紙の中にあるように彼らは伯爵家の人間。私たちよりも爵位は格上。しかも、国の機関の一部を任されているかなりお偉い人よ。でもね、ミラ。レディーに……しかも大事な婚約者に大勢の前で恥をかかせるような行為は許されないわ」
彼女の言っていることはきっと正しい。
でも、私は信じたくなかった。大好きなファーリス様がそんなことをしてしまう人だったなんて……。
「ボルドーにも話しましょう。こんなもの婚約破棄ものだわ」
「まって、ハルネ。ファーリス様にはきっと何かご事情があったはずよ。それに……デイジーさんは確か婚約が決まったって言ってたはず、兄妹水入らずの時間を最後の誕生日に過ごしたいという気持ちがあったのかも……。ボルドーお兄様にご報告するのはやめておきましょう」
兄のことだから今回のことを知ったら「婚約破棄だ!」なんて騒ぎかねないわ。私だって恥をかかされたし悲しかったのは事実だけれど婚約破棄をしたいわけではない。
これは我が家にとっても重大な婚約なのだし……。世の中の御令嬢にはお家のために望まない相手と結婚する方だってごまんといるのに、たかが約束をすっぽかされただけで婚約破棄だなんて絶対にしてはいけないことだわ。
(ボルドーお兄さんならやりかねないけど)
「ミラ、あなたがいいなら私は何も言わないわ。でもね、これだけは覚えておいて、次に彼にお会いしたら悲しかった気持ちを正直に伝えるのよ。あなたは結婚をすれば彼と同じ対等な関係になるのだから、ここで折れてはダメ。幸せになるためにね」
「えぇ、ありがとうハルネ。さっそくお手紙にしてみるわ」




