2話 待ちぼうけ
この日のために仕立てたドレスを着て、サロンで髪の毛もツヤツヤになったわ。ファーリス様の待ち合わせは御令嬢たちがこぞって通い詰めるというカフェテリア。しかも、この日のために彼が貸し切ってくれたのだとか。
あぁ、早く彼に会いたいわ。
「では、お嬢様。私は外でお待ちしておりますわ」
「ディーナ、ありがとう。デートが終わったら帰る前に2人でお買い物に行きましょうね。ハルネたちにもお土産を買って行ってあげたいし……、それに前にディーナが教えてくれた美味しいスイーツも食べたいわ」
ディーナは少し嬉しそうに笑うと「では」と言い残して一歩下がった。
彼女は外で待機をすると言ったが嘘だ。ディーナは私のメイド兼護衛、デートだという私に気を遣ってそういってくれただけで、必ず私が守れる場所に彼女はいるはず。ほらね……。
私は案内された席に座り、ファーリス様の到着を待った。
***数分後***
待ち合わせの12時から数分、ファーリス様はまだ現れない。
どうしたのかしら、まさか事故に……? 彼のような誠実で優しい方が遅刻なんてするわけがないわ。
「ありがとう」
私はウェイターが持ってきてくれた紅茶を飲みながら気を落ち着ける。都市部は華やかな一方で一部では治安が悪い場所もあって貴族が被害に遭うこともあるとか……。
彼は裁判所の長を務める家系。犯罪者に恨まれているだろうし……。
あぁ、気が気でないわ。
***1時間後***
ダメだわ。はしたないとわかっていても彼が心配だわ。
ここで待っているなんてできない……!
私が席を立とうとした時のことだった。
ドアがあくベルの音が鳴った。
——彼だわ!
「ファーリ……」
彼の名前を呼びかけて、振り返って見るとそこには見知らぬ青年が立っていた。背丈こそ高いものの表情は幼く、衛兵になりたてといった感じで服に着られているような感じだわ。
「えっと……今日は貸切で」
ウェイターが困ったように青年に声をかけると青年は
「申し遅れました。私、ファルケンハウゼン伯爵家の使いでございます。名をミルホックと申し上げます!」
あまりの馬鹿でかい声に私もウェイターもビクッと肩を揺らす。
でも今、彼ファルケンハウゼン伯爵家とおっしゃった……?
「そちらにいらっしゃるミラお嬢様にお申し伝えがございます」
私は胸騒ぎがして彼に「何かしら」とあいさつもせずに聞いた。
「こちら、ファーリス伯爵からのお手紙でございます」
ミルホックはそういうといつもファーリス様が私にくださる桃色の便箋を取り出した。私はそれを受け取ると急いで開く。
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拝啓、いとしのミラへ
ミラ、すまない。
僕の妹であるデイジーの誕生日が近いんだ。君とのデートの準備をしていたら「お兄様とバカンスに行きたい」とごねられてしまってね。
こうなってしまうとデイジーは絶対に譲らない子なんだ。
君はいずれデイジーの姉となる存在。それに君が男爵令嬢である今は君の方が身分が低い。
つまり、僕は年下で身分の高い彼女を優先することにした。
デートはいずれまた僕の方から声をかけるよ。
追伸
デイジーの誕生日が近いんだ
君からも何か贈り物をしてほしい
ファーリス・ファルケンハウゼン
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「えっ……」
ミルホックは絶句する私をみて申し訳なさそうに眉を下げた。




