17話 2人の公爵
食べたことのないような豪華な食事を頂きつつ、私たちは会話をする。もしも、ファーリスがこんなことをしでかさなければ関わることすらなかったような方々に私は少し緊張していた。
「カルロス。落ち着いたら次の休暇はカルバリェスの領地で過ごさないか?」
アレックスは口元をさっと拭うと私に目配せをする。なんの目配せかはわからないが、彼の瞳は悪戯に輝いている。
「カルバリェス? ミラ嬢のところで?」
「あぁ、先日診療所を立てる相談で足を運んでね。とても良い場所だったよ」
「そうか。かなり遠い場所だと聞いていたが」
「アレックス様、休暇に使うには我が領地はあまり……その」
辺境の地と罵られることも多い場所だ。と言いかけてやめた。確かに、都市部からはかなり時間がかかるし、ほとんどが農地でまともに観光できる場所もない。ただ、先日アレックスが褒めてくれた市民たちを陰で下げるようなことはしたくなかったのだ。
「カルロス、おぼえているか? 寄宿学校の遠方合宿で俺たちが抜け出した時のこと。あの時のことを思い出すよ。カルバリェス領地にいくとさ」
カルロスは思い出し笑いをして、ゆれたグラスをそっとテーブルに置いた。
「あぁ、俺たちが迷ったあげくに農地のかぼちゃを食っておばちゃんに捕まった話か?」
「まぁ……」
「ミラ嬢、俺たちは結構やんちゃな時期があってさ。田舎で行われる合宿訓練が嫌で抜け出したんだ。そんでだだっ広い農地で帰れなくて、腹を空かせてカボチャにかぶりついて……」
少し重い雰囲気だったテーブルが笑いに包まれる。その後、アレックスとカルロスそしてファーリスは教官にひどく叱られて、盗みを働いた農家で奉仕作業をさせられたらしい。
「けど、農家のおばちゃんが話してくれるいろんなことがお坊ちゃんだった俺たちにはすごく新鮮でさ。硬くてミルクにつけなきゃ食えないようなパンとか、作った野菜の半分は食うことも売ることも許されずに領主に渡すこととか、そういう大事なことを学んだんだ。今になっては土まみれになったいい思い出だよ」
カルロスが懐かしそうに話すのを聴きながら、軍人としてその見た目もあって厳しそうに見える彼の心根がとても優しい人なのだと感じた。
「なぁ、ミラ嬢。この問題が片付いたら是非俺も招待しておくれ。もしかしたら、俺のような怖い軍人は怖がられるかもしれないけれど」
「とんでもございません。是非……」
「おっと、カルロス。俺も一緒に着いていくからな? ん?」
カルロスが呆れたように目を回すと、皿に残っていた肉を口に入れた。
ファーリスとデイジーが断罪された後、私はどうなっているのだろうか。
2人とは違って、私は爵位も低くいわば捨てられた可哀想な令嬢として憐れみの目を向けられるのだろうか。それとも、お兄様が新しい婚約先を見つけてくださり、もうカルバリェス領地にはいないかもしれない。
お二人と約束をしてしまったけれど、よかったのだろうか。
美味しいフルーツパイを食べ終わり、男性陣は食後のお酒を楽しんでいた。私には暖かいハーブティーが用意されている。
「さて、カルロスも帰ってきたことだし本格的に彼らを断罪するお話をしようか」
ピリリと空気が緊張する。さっきまで笑顔だった2人がぐっと真剣な眼差しになった。




