14話 妹君との対峙
デイジーが指定した日時を念の為アレックスに伝え、私はファルケンハウゼン邸へと向かっていた。メイドのディーナも一緒だけれどやっぱり緊張するわ。
「お嬢様、ご体調が悪くなったらすぐにお申し付けくださいね」
「ありがとう、ディーナ。私なら大丈夫よ。どうせこの婚約は破棄になるのだもの。心を無にして今の私にできることをするわ」
「お嬢様……ディーナは必ずお嬢様が素敵な殿方とご一緒になれると信じております。だから、その」
「ありがとう、その言葉だけで救われるわ」
都市部を馬車で走り、ファルケンハウゼン邸に着くと何人もの使用人たちが私を出迎えてくれた。ディーナは使用人用の部屋へと案内され、私はデイジーの待つ広間へと案内してもらった。
「ごきげんよう、ミラ」
デイジーは勝ち誇ったような顔で私に挨拶をした。失礼なことに立ち上がりもせず座ったままにだ。彼女はファーリス様を私から奪って勝ったつもりでいるのね。なんておぞましいんでしょう。
「ごきげんよう、デイジー」
「どうぞ、お昼の前に紅茶をいかが?」
「ありがとう、いただくわ」
貴族同士のやり取り。心のこもってないこれは大嫌いだわ。デイジーはどうして私をここへ呼んだのだろう?
「そうだ、お兄様とはどうなの?」
「相変わらず定期的にお手紙をいただいているわ」
「そう」
ふふふ、と勝ち誇ったような笑いを浮かべてデイジーは紅茶を口にした。やっぱり、彼女は自分がファーリス様と寝たことを私に自慢したいんだわ。あなたより上よと言いたげなあの表情に私は恐怖さえ覚えた。
「お兄様はね、明るくてハイカラな女の子が好みなようよ」
私は「そうね」と短く答えた。だって、私はおとなしくて地味で田舎の令嬢だ。まるでデイジーの言う女の子とは真逆……。
「お兄様からあまり貴女の話は聞かないから、今日はお話をできたらと思って呼んだのよ。だって貴女は私のお姉さまになってくれるんでしょう? 少しは知っておかないと」
「ありがとう。私は、デイジーさんのことをよくファーリス様からのお手紙で読んでいるわ。とてもはつらつとした良い子だと」
「お兄様ったら……。そうだ。養子のことは聞いた?」
「養子?」
「えぇ、お兄様はね。とてもご慈悲深い方なの。恵まれない子供を養子にするっておしゃってたわ。貴女と結婚したら」
まさか……。
この兄妹は秘密裏に出産した子供を私に育てさせる気なのだろうか。我慢をして笑顔を作っていても胃の中が激しく動き吐き気が込み上げてくる。
「そう、最近では貴族の方々が恵まれない子供を養子にして社会貢献をする例はたくさんありますものね。っ、そうですね」
明らかにデイジーは私を見て意地悪く笑った。
あぁ、あとこの時間はどのくらい続くのだろう。後どのくらい耐えればいいのだろう?
「そうでしょう? きっとお兄様が選ぶのだもの。最高に可愛い子が養子になるに決まっているわ。私にとっても姪っ子なのだしたくさん可愛がらせてね。可愛い養子さえいればお兄様は貴女と子孫を残さなくて済むし」
私はもう限界で部屋の隅にいたディーナに目配せをする。兄妹で愛し合い、その子供を体に宿して……それだけでも大罪なのに養子として迎え入れる……? とても正気とは思えない。
「えぇ、そうね」
「お姉さま、せいぜいお飾りの奥さんとして一生をファルケンハウゼン家に捧げてくださいね。お兄様が格下の貴女を愛することはないでしょうけど」
弱った私をみて本性を表したデイジーはニンマリと笑った。私が真実を知らなければきっと怖くて仕方がなかっただろうけど、でもアレックスが教えてくれたおかげでまだ意識を保っていられた。
「そろそろお暇しようかしら」
「あら、私のティータイムを自ら切り上げるなんて無礼ね」
「そんなつもりは……」
「陰気臭い顔はさっさと出ていってちょうだい」
デイジーが私の方へ歩み寄ってくる。怖い……。私はぶたれるのではないかとぎゅっと目を閉じた時だった。
広間のドアが派手に開く音と、使用人たちの「困ります」という声、そして一際明るい男の声が響いた。
「やぁ、デイジー嬢にミラ嬢。お戯れかな?」
困り顔の使用人たちに止められながらもゴテゴテしたハンカチをこちらに振っているアレックスだった。
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