13話 妹君からの呼び出し
婚約破棄を心に決めてから私の心はだいぶ落ち着いていた。日が経つに連れてファーリス様たちがしていることの悍ましさがショックから嫌悪感へと変わり次第にその嫌悪感も薄れ始めていた。私はそこまで彼を愛していなかったのだろうか。
「ミラ、おはよう」
「ハルネ」
「あのね、ミラ。これが届いているわ。あの無視してもいいのよ」
ハルネは少しこわばった表情でゴテゴテした豪華な封筒をこちらに見せてくれた。みたことのない封筒だわ。ファーリス様がくれるものともちょっと違う。何よりもあまりセンスが良いとはいえない派手な色合いだし、ここまで香ってくるきつい香水。開けなくてもそれの差出人が下品な人間だと想像がつく。
「ハルネ?」
「あの子からよ。しかもみてこれ」
手紙には「招待状」と書かれていた。香水臭い手紙を開くと
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親愛なる ミラ お姉様
こんにちは、デイジーです。
今日は、私のお姉さまになるミラと一緒にお食事をとっておきたくてお手紙を差し上げた次第です。
場所はもちろん、都市部のファルケンハウゼン邸よ。
私は公爵夫人になる立場だけれど、ミラお姉様との親交は続けていきたいと思っているわ。
日時は下記にお待ちしていますわ。
デイジー
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「うっ……」
私は突然の吐き気に襲われて口元を押さえた。
さっきまで平気だと思っていたはずなのに、私の脳裏に浮かぶ嫌な光景。彼と彼の妹が……だめよ。想像しては、おぞましい。
「私があなたに代わってお断りのお手紙を書くわ、ミラ。少し寝てなさい」
「ねぇ、ハルネ。まだ婚約破棄をする前なのに……私はここで彼女の誘いを断ってしまったら……我が家にとってよくない状況になってしまうことはない?」
「それは……」
ハルネが口籠る。
やはり、男爵家と伯爵家では立場も影響も大きく違う。アレックスたちの計画のもと、ファルケンハウゼンが没落するまでは波風を立てたくはない。
「ハルネ、私いってくるわ。でも大丈夫。どうせ婚約破棄することは決まっているのだし、少しの辛抱だと思って我慢する。それくらい、私にもできるわ」
「ミラ、相手は兄妹で……あんなことするようなイカれた人間よ。注意しないと」
「念の為、この食事会のことをアレックスにも伝えておくわ。それに、ディーナを連れていくわ。大丈夫よ、相手も危害を加えてくるようなことはないと思うし……」
「あなたがそういうなら……でも無理はしちゃだめよ?」
「わかってる。ハルネ、ありがとう」
私はグッと心を強く持ち、香水臭い手紙を手に取った。アレックスからの言伝はきっと本当なのだろう。だけど、私は私のやり方で我が家を守らないと。
「ディーナ、準備をお願いできるかしら?」
「はい、お嬢様」




