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12話 sideアレックス 


 馬車に乗っている時、こんなにも心が踊っている自分に、少しだけ違和感を覚えた。カルバリェス男爵家が管理する領地は国政の中でもさほど重要ではない。ただ、ちょっとだけ……そう、ほんとちょっとだけファーリスの婚約者である令嬢に少し会いたくなったのだ。


「目的地まであといくらだい?」


「そうですね、あと半刻ほどだと」


 ミラ・カルバリェス男爵令嬢はあのファーリスのために泣いていた。ファーリスのしたことといえば、あろうことか実の妹のために婚約者に恥をかかせ馬鹿らしい伝言を残したくらいだろう。それも同じことも2回もだ。

 なのに、ミラはまるでまだファーリスを愛しているかのように戸惑って……泣いていた。


 そもそも、貴族同士の結婚など愛がないのがほとんどだ。なぜなら、ほとんどが政略結婚だったし、恋愛というのは結婚後に後継ぎを作ったあと、お互いに愛人を作って楽しむものだ。

 なのに、ミラはまるで……。


 辺境と呼ばれるような土地では広大な農地と、浅黒く日焼けしたたくましい領民たちが道を行き交っていた。都会では見慣れないものや店、だがスラム街のような治安の悪さはなく、のどかという言葉がぴったりだった。


 カルバリェス家の邸宅は、貴族が暮らしているにしては「草」に囲まれすぎているような気がした。敷地面積は十分だし、もっと良い素材を使えばマシなものができるのではないか? と疑問に思うくらいだ。


(まるで魔女の屋敷だな)


 僕はさまざまな貴族と接見する機会があったがこんなのは初めてだ。貴族というのは地方に行けば行くほど、爵位が下がれば下がるほどその権威を領民に示すために傲慢になり大きくて豪華な邸宅を持とうとする。

 そういえば、カルバリェス家は人徳があると聞いたことがあるが……きっとそんなことはないはずだ。あのミラだって心の奥底には汚い感情があるに決まっている。


 

***



「やぁ、ミラ。少し痩せたね」


「そ、そんな」


「僕は医者だよ。誤魔化したって無駄だ。しっかり食べなさい」


 ミラは僕の予想に反して、かなりやつれ切っていた。まるで、ミラがファーリスの内情を話してしまったことを後悔しているかのように……。

 いや、ファーリスとの婚約が破断になれば自分に得がないからだろう。


 でも、僕がいくら心の中で思い込もうとしても目の前にいる彼女は明らかに「失恋」した乙女のそれだった。

 ここに僕が持ってきた事実を彼女に知らせるべきだろうか? もしも、彼女がファーリスと妹の悍ましい関係とその結果を知ってしまったら、本当に消えて無くなってしまうんじゃないか?


「あ、あの……アレックス様?」


「あぁ、すまない」


 僕は、カルロスのために動いているはずなのに。彼女を助けたいと思ってしまっているのだ。なぜ? この前に出会ったばかり。しかも彼女は人の婚約者だし、辺境の地の男爵令嬢だぞ……?


 さっさと、本題に入ってここを去ろう。


 調子が狂うな。この女と一緒にいると……。



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