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9話 アレックスの訪問


 舞踏会から数週間、塞ぎ込んでいた私の部屋をハルネがノックした。考えれば考えるほどやっぱりファーリス様と婚約者であった生活は幸せだったのではないかと思ってしまうのだ。

 何よりもこの婚約を破棄することでカルバリェス家には多大な損害が出るだろう。私1人が我慢すれば全て丸く収まる話だったのだから。


「ミラ、お客様よ」


 ハルネの声に私は反応する。


「お客様?」


 扉の隙間から覗くとハルネがにこにこと手を振っている。その奥には、あの日舞踏会で出会った長身でブロンドの美しい男性がこちらに笑顔をむけて立っていた。


「アレックス?!」


「やぁ、さっそくお邪魔しているよ。ここはいいね。のどかで空気がうまい。それに領民はみな健康的で景色も綺麗だ。さて、少しお話ししたいことがあってね。準備ができたら下で話そう」



***


 アレックスはハルネの作ったクッキーを美味しそうに食べている。気品と美しさはやっぱり公爵家の人間で住む世界がやっぱり違うのだと認識させられる。


「やぁ、ミラ。少し痩せたね」


「そ、そんな」


「僕は医者だよ。誤魔化したって無駄だ。しっかり食べなさい」


 私はホットミルクを少し飲んで、それからクッキーを一つ口に入れた。甘くて美味しい。


「よし、食べれたね。改めて謝罪をさせてくれ。君に無理強いをしてすまなかった。ただ、この婚約破棄でカルバリェス家が不利にならないよう、僕が全力で動くから安心してくれ」


 アレックスはどうしてそこまでしてくれるのだろう?


「アレックス、どうしてそこまで……?」


 私の質問に彼は驚いたように瞬きをして、ティーカップをおいた。


「そうだな、今は言わないでおこう。けれど、信用してくれると助かる」


 含みのある笑顔に私はちょっと違和感を覚えつつも今はできることをやるしかないので、彼を一旦信じることにした。兄も同じように言ってくれているし……きっと婚約破棄をした後にもっと家にとって良い相手との婚約が決まるはずだわ。大丈夫、きっと大丈夫よ。


「さて、本題と行こうか」


 アレックスの口から出た言葉に私は驚愕した。

 信じられないなんて言葉では片付けられない悍ましい現実……。


「失礼します」


 というのが精一杯でお手洗いに駆け込むとさっき食べたばかりのものを吐き戻してしまった。


「ミラ!」


 背中をさすってくれる大きな手の感触、私はどんどんと意識が薄れていった。



***



「起きたかい?」


 もうすっかり窓の外は暗くなっていて、私は自分のベッドで横になっていた。横になっているのに頭がくらくらとして気分が悪い。


「お水を」


 アレックスは水差しからグラスに水を注ぐとベッド脇のテーブルにおいてくれた。


「ありがとう」


「すまなかった。君にはあまりにも刺激の強い話だったね。僕の配慮が足りなかったよ」


「いえ……そのそんなことが起こっているなんて……知らなくて」


「当然だろう。犯罪だ。カルロスと彼らを制裁する計画を立てているんだ。君にも協力してほしいと思ってる。だが、無理はしないでほしい」


 アレックスはそっと私の手に触れると「君の体が心配だ」と付け足して再度謝罪をした。


「それじゃあ、また」


「あの……アレックス、ありがとう」


 彼は優しく微笑むと部屋を出ていった。



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