プロローグ
短編版が好評だったので連載版も開始しました。
私には幼い頃から決められた相手がいる。
男爵家の長女として生まれた以上、私にはお家の政治道具になる必要があるのだ。
「ミラ、ファーリス様からお手紙よ」
私にそう言って分厚い便箋を渡してくれたのは義姉のハルネ・カルバリェスだ。ハルネは義姉だが私と同じ歳の学友で兄・ボルドーの妻だ。
ハルネは私たちカルバリェス家よりも格上の伯爵家の出身だが兄とは恋愛結婚。ハルネが3女だったことから許されたとても幸せな関係である。
「ありがとう。ハルネお姉さま」
「やめてよ。ハルネでいい」
そんなやりとりをして私たちは笑い合った。私は婚約者のファーリス・ファルケンハウゼン伯爵様からのお手紙を胸に抱いて自分の部屋へと戻る。
私の住むカルバリェス家は国境に近い辺鄙な場所に邸宅を構えているため、都市部に住む彼とはこうして文通で愛を育んでいるのだ。
ファルケンハウゼン家は代々国の中央裁判所の裁判長を務める家系で貴族の中でも由緒正しいお家柄だ。私がその長男であるファーリス様に嫁ぐというのはカルバリェス家にとって最も重要なことである。
父と母が死に、現在当主をつとめる兄も私の嫁入りにたいそう期待をしているし、私もファーリス様と一緒に過ごせると思うと胸が高鳴った。
私はベッドに座って彼からの便箋を開く。
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拝啓 愛しのミラへ
元気かい?
こちらはずっと天気が悪くて鬱々としているよ。
君からもらった手紙を読み返して、次に会えるのはいつだろうかと考えることが最近の僕の楽しみさ。
そうだ、妹のデイジーの婚約が決まってね。
なんとあのデモンズ公爵家のご長男とだ。デモンズ家は国の軍の総本山。とてつもないことだよ。
デイジーは嫌がっていたけど、僕としては鼻が高い。君もそう思うだろう?
なんでも相手がデイジーを見て一目惚れをしたらしいんだ。彼女の美しさは本物だったということだね。
そうだ、日々忙しいけれど来週末なら時間が作れそうでね。
もしよければ都市部に遊びにこないかい?
僕たちもそろそろ結婚に向けて動き出してもいいと思うんだ。
妹に先を越されてしまってはメンツが立たないしね。
ミラ、早く君に会いたいよ。
できればすぐに返事を寄越してくれ。
ファーリス
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あぁ!
なんて素敵な人なの?!
それに、公爵家のご親戚ができるなんてとんでもないことだわ。
私はつくづく自分が幸せな婚約をしているのだと心から感謝した。
「ディーナ! とびっきり素敵な便箋を準備してちょうだいっ」
私はメイドのディーナにお願いをして、彼へYESの返事をどんなふうに伝えようかと考える。彼が手紙を読んでもっともっと私を好きになってくれますように……。
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