表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

余談 山奥

 そしてその日がやって来た。

 (くだん)の社長は、真昼間、高級車を三台くらい引き連れて、大名行列でやって来た。あの若い男も一緒だ。今日は流石にサングラスは嵌めていなかった。

六十は過ぎてそうなその社長は、高そうなストライプのスーツと山高帽を被った、厳格そうな紳士だった。

眼鏡の奥の眼光は、獲物を狙う鷹のように鋭い。沙織はその日学校だったが、熱があると嘘をついて休んだ。いくら締め切って貸切にするとはいえ、父一人では、とても不安だったのだ。


 ぞろぞろと部下を従え、社長が『山奥』の暖簾をくぐった。沙織は寝間着のまま、店の二階にある、自分の部屋の窓からこっそりその様子を眺めていた。この社長の舌を唸らせれば、全国にウチのラーメン屋の看板が並ぶかもしれない。そう思うと、沙織もドキドキしてきた。父は今、厨房で、この日のためのとっておきのラーメンを用意している……はずだった。

 しかし、

「大将は?」

「……あれ?」

 貸し切った一階の店内が、段々騒々しくなっていく。沙織は首を傾げ、思い切って寝間着のまま一階に降りて行った。父は何をやっているのだろう?


 店内に出た。若い男が慌ただしく何処かに電話をかけている。物陰からひょっこり顔を出した沙織は、社長と目が合った。社長は、少し戸惑ったように肩をすくめた。


「……いないじゃないか」


 社長の一言に、店内がシン……と静まり返った。厨房から、換気扇の音がやけに耳に響く。

 

 私は戸惑いを隠せなかった。どういうわけか、父は忽然と店から姿を消していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ