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余談 山奥

「はぁ……」

「ちょっとお父さん、またため息なんかついて」

「しょうがねえだろう、沙織。こんだけ客が来ないとなると……」


 閉店後、居間で寝っ転がりながら、父がため息とおならとゲップをほとんど同時にこなした。どんな技術だ。沙織は顔をしかめた。


「もう! そんなんだからお母さんも実家に帰っちゃうのよ!」

「しょうがねえだろう。出るもんは出るんだ」

 父はこっちに顔を向けることもなく、TVを見たまま、ボリボリと背中を掻いた。沙織はむくれた。全くもう! デリカシーも何もない、年頃の娘に嫌われるようなことばっかり!


 ……だけど。


 まぁ、父の気落ちも、わからなくもない。


 沙織はひとりごちた。

 数年前までは、『山奥』もまだそれなりに繁盛していた。一家三人がなんとか暮らしていける程度には、出入りも多かった。

だけど最近はさっぱりだ。

今では一日に数える程度なんてのもざらだった。そもそも店の前を車が通っていない。周りは人口数百名程度の、寂れた山村である。沙織の中学校には生徒が七人しかいなかった。みんながみんな毎日外食で、しかもラーメンが食べたいかと言われると、沙織も眉をしかめるしかなかった。

「どうにかなんないかしらねぇ……」


 困ったものである。毎日のように赤字だと言うのに、沙織の父は、どうも感心なさげにそっけない。どうにも父は、職人気質(かたぎ)のようなところがある。良くも悪くも『ラーメン狂い』なのだ。自分のラーメンが好きすぎて、売上よりも美味しいと言ってもらえればそれで満足、とでも思っているようだった。家族としては好きだったが、経営者としては決して大成できないだろうな、と沙織は常々思っていた。


「はぁ……」

 しかしこのままでは、店は閉店、父は夜逃げ、一家は離散しそして世界は滅亡へ……なんてことになりかねない。沙織は食器を片付けながら、小さく吐息を零した。父のため息がうつったかもしれない。せめてもうちょっとお客さんが入るようになれば……。


 世界滅亡の危機もどこ吹く風で、彼女の手元では、皿についた白い泡がキラキラと輝いていた。

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