最終話1【龍治】
最終話1【龍治】
俺が家に着き自室の扉を開けると、
「どこ行ってたのっ?! りゅうちゃん!」
心配そうな顔で眉をひそめた直が開口一番俺のほうへに駆け寄ってきた。
「悪りぃ。遅くなって」
一息つこうと直の横を通り過ぎてソファに腰掛ける。
「……『悪りぃ』って……」
少し呆れ混じりに呟く直の顔を見れば、心配していたのか目が少し潤んでいるのが分かった。その表情は俺を責めているようで、俺は見て見ないフリをした。
「……りゅうちゃん、いっつもそうだよね……」
ため息をついて低めに呟く直。
(あ。これ、相当怒ってんな)
俺は瞬時にそう思った。直がこんな低い声になるのはすごく機嫌が悪いときか怒っているときくらいだからだ。
「だから。悪いって言ってんじゃん」
「だから何っ?! りゅうちゃんいっつもそうじゃん! 黙って勝手に行動してさっ、僕がどれだけ心配してるかも知らないでしょっ!?」
なんとか直を宥めようと軽く言ったけどそれが逆効果だったみたいで、直は俺のほうに詰め寄ってくると床にぺたんと座りこみ大声でそう言ってきた。
「いつもいつも! 心配する僕がバカみたいじゃんっ!」
そこまで言って今度は俯いてぐずぐずと泣いてしまう。
「そ、それは悪いと思ってるけど……そんな風に怒鳴らなくても良くないか?」
俺は直がそこまで怒ると思っていなくて、少しびっくりして恐る恐る直の顔を覗きこんだ。
「りゅうちゃん何も分かってない! なんでちゃんと言ってくれないのっ?!」
こぼれた涙を拭く直は俺をすごい勢いで睨みつけてきた。
「行き先とか言わなかったのは悪りぃけど、なんでそんなに怒ってんだよ」
こんな風に怒る直は初めてで、俺はなんで直が怒っているのか分からなかった。
「だってっ、僕……りゅうちゃんに嫌われたとか思って……」
直は急に不安そうな表情で俺を見てくる。
「なんで? 俺がお前を嫌うわけねーじゃん」
俺は直がなぜそう思うのか本当に分からなかった。
「だっていつも何も言ってくれないし……僕、そんなにりゅうちゃんに嫌われてんだとか思ったりして……」
少し自信無さげに俯く直を見て、俺はすごく愛おしいと言うか大切にしたいとか、悲しませたくないとか、色んな感情が一気に溢れてきて――
――次に気づいたときは直を抱きしめていた。
「りゅ、りゅうちゃん……?」
びっくりしたように呟く直の声で、俺は自分が何をしているのか気づいたが、もうそのまま感情任せに直を抱きしめたままにした。
「俺ーー直のことが好きだ」
今はっきりと自分の感情を直に伝える。
孝弘が勇気を持って俺に伝えてくれたように、俺も勇気を出して直に対する想いを打ち明けた。
『これで直に嫌われてもいい』
本当にそう思った。
もう、色んな感情や思いがごちゃごちゃになっていたけど、直に対する想いを隠し続けるのは、正直イヤだった。
想いを打ち明けたら嫌われてしまうかもと怖かったけど、もうなんか吹っ切れた感じがして、思わず抱きしめてしまった勢いに乗って、俺は直に告白をした。




