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30話【直往】

30話【直往】



 りゅうちゃん、まだ帰ってこないな。


 そんな風に思って時計を見るともうすぐ十九時になる。



(……え。りゅうちゃんこんなに遅くまでどこに行ってるの? もしかして本当に鈴木に仕返ししに行ったんじゃないよね?)


 そう思うとなんだかソワソワしてきて、


「……む、迎えに行ったほうがいいかな」


 僕は自然と呟いて落ち着かず立ち上がる。その場で足踏みをするようにウロウロとした。



「え、でもどこに迎えに行く? 行き先とか分かんないよ……。す、鈴木の家とかかなぁ」


 数歩進んでピタリと止まり、顎に手をあてて考えてみる。


 まあ考えてもりゅうちゃんがどこにいるかなんて分からないんだけど。


 ちょっと落ち着こうと思いまたソファに座ってお菓子を一口。



「……やっぱり、迎えに行ったほうがいいよね」


 口の中でお菓子を咀嚼そしゃくしながら言って再び立ち上がる。



「あ。倉田さんにひとこと言ってったほうがいいか」


 部屋から出ようと扉に手をかけその動きを止めた。



(倉田さんどこにいるのかな……)


 僕は踵をかえして再びソファへと座ってしまう。



(りゅうちゃん。本当にどこに行ったの……? 僕……りゅうちゃんになんかしてないよね? 嫌われるようなこと、してないよね……?)



 りゅうちゃんが、あまりにも遅いので僕はりゅうちゃんに嫌われてしまったのかと思ってしまう。



「僕……。嫌われて、ないよね……?」


 誰に言うでもなく、自分に問うように小さく呟いた。



 嫌われていたら一緒に帰らないし、家に泊めてだってくれないよね、普通。


 うん。多分、嫌われてはいない。りゅうちゃんを怒らすようなことも、思い返してもないはず。だから、大丈夫。

 

 りゅうちゃんは僕を嫌いになったわけじゃない。



 僕は自分自身にそう言い聞かせた。これ以上深く考えるとなんかどんどん変なこと考えてしまいそうだったから。


 でもやっぱり迎えに行ったほうがいい。


 そう思いたって僕は立ち上がるとその勢いで部屋から出る。そのまま玄関まで行こうとして――



直往なおゆき様? こんな時間にどこかへお出かけでしょうか?」


「……ぅひゃ?!」


 後ろから突然聞こえた声にびっくりしてしまった僕は口から変な声が出た。

 慌てて振り返ると、倉田さんが目を丸くして僕を見ていた。



「え、えっとあの……りゅうちゃ、龍治りゅうじくんの帰りが遅いかなぁって思って迎えに行こうかなって」


 理由としては心もとない気がするけど心配なのは本当だから言い訳っぽくなっちゃったけど。



 倉田さんは顎に手をあて少し考え込み、

「――そうですねぇ」

 胸の内ポケットから携帯電話を取り出して、

「でもこの時間から直往様が出かけるのは少し危ないので、わたくしの方から龍治様に連絡を取ってみましょう」

 僕を安心させるように笑顔でそう言ってくれた。



「あ、はい。おねがいします」


 僕はそんな倉田さんの笑顔に少しホッとして思わず頭を下げてしまった。倉田さんには、『そのような事なさらないでください』と、苦笑いでいさめらられてしまったけど。



(とりあえず、りゅうちゃん早く帰ってきてほしいな)



 そう思いつつ、僕は電話をする倉田さんの姿を見守るようにした。



 

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