29話【龍治】
29話【龍治】
「……小学校の頃にさ、直往のこと『子分になれ』とか言ってたの覚えてるか?」
孝弘が突然そんな事を聞いてくるから俺は苦虫を噛みしめたみたいな変な表情になり、
「覚えてる」
と、口の中で呟くように頷いた。
「その頃くらいからお前は直往と一緒にいるようになった」
孝弘の、まるで責めるような言い回しに、俺の心はトゲが刺さったように少し痛みを感じ、そっと孝弘の顔を見た。
孝弘は俺としばらく見つめあっていたけど、ふと視線を下に向ける。
「別に、龍治が誰と仲良くしようがいいと思ってたんだけど……」
小さなため息をはく孝弘。
「大事なもん取られたみてーに無性に腹が立ったんだ」
言って、再び俺を見る孝弘は、全てを悟ったような、何かを押し殺すような――でもどこか苦しくて泣き出しそうな表情をしていて、俺の胸はちくりと痛んだ気がした。
「俺は――」
孝弘の口が動く。少し間をあけて、
「直往に『嫉妬』した」
――『嫉妬』?
直にお前が?
孝弘の言葉を頭ん中で反復した。
「……なん、で」
思わず呟いた。
「なんで、嫉妬? それじゃあまるで――」
そこまで言って、なにかに気づいた感じがした俺は言葉を止めた。
もしかして、え?
違うよな?
俺が直を恋愛として好きなように、孝弘が俺のこと『好き』なんて、あるわけないよな?
自意識過剰もいいところだけど、こんな言い方されたら勘違いするじゃん。
いや。孝弘はきっと『友達』を取られたって言う感じで嫉妬してるんだと思う。
そうだよな、孝弘?
そう頭ん中で自己解決して、恐る恐る孝弘を上目遣いで見ると、孝弘はさっきと同じように真面目な表情で俺を見つめ、
「俺、龍治のこと好きだから」
少し照れ隠しに、でも視線は俺から逸らさずそう言ってきた。
俺はその言葉の意味から逃げるように半笑いで、
「『友達』、としてだよな?」
念を押すように言えば、
「いや」
首を軽く横に振る孝弘。
「恋愛のほうで、俺はお前が好きだ」
今度は、照れもなくすごく真剣な顔でしっかりとそう告げてくる。
「いや、え……?」
あまりにも真剣な孝弘の態度に俺は動揺してしまう。
ドクドクと心臓が脈打ち息苦しくなる。
「……気持ち悪りぃだろ? だよな。ごめん、今のは忘れてくれ」
俺が動揺しているのが伝わったのか、孝弘は少し自虐気味に早口でそう言う。いたたまれなくなったのか、
「今までのこと、直往には謝るから」
そう早口で続けて、
「じゃあ俺帰るから」
言い残し、その場を去ろうとする孝弘。
「ちょっと待て!」
俺は動揺しつつ孝弘を止めた。




