28話【龍治】
28話【龍治】
俺は孝弘を見上げて、
「……気に入らねーなら、それなりに俺に言えばよかったじゃん」
そう言うと孝弘は図星を突かれたようにグッと唇を噛みしめ、俺の視線から逃れるように顔を俯かせ、「そうじゃねぇよ……」と小さく呟く。
しばらく黙ったあと顔を上げ真っ直ぐに俺を見つめ、
「なんで、直往なんだよ……」
「だから気に入らねーんだったら……」
「そうじゃねぇって!」
孝弘の言ってることがいまいち理解できない俺の言葉に被せるように孝弘は声を荒げてくる。
そんな孝弘の煮え切らない態度に俺も次第にイライラしてきて、
「じゃあなにが言いたいんだよっ、お前は!」
と、苛立ちをぶつけるようにブランコから乱暴に立ち上がって孝弘を睨みつけながら詰め寄った。
「なんで分かんねーんだよっ!」
孝弘も負けじと俺を睨み返してくる。
「分からねーよ! 俺が知りてーのはなんで直をイジメたかってことだ!」
売り言葉に買い言葉じゃないけど、大声をあげる孝弘と同じように俺も大声になってしまう。
「それはっ……」
そこまで言って孝弘が急に口をつぐむ。
「『それは』のつぎはなんだよ?」
少し嫌味っぽいけど、気が立っていた俺は孝弘の言葉をおうむ返しした。
「……だからっ、なんで直往なんだよって……」
さっきまで大声だった孝弘は急に声を縮めたのか、かろうじて聞こえるくらいでたどたどしい口調となる。
「……」
先ほどから同じようなことばかり言う孝弘に俺は少し呆れて気づかないうちにため息をはいた。
「『なんで直往なんだよ』って、どういうことだよ?」
同じ言葉を繰り返す孝弘がなにを考えているのか分からず、少し気が落ち着いた俺は孝弘の顔を覗き込むようにして聞いた。
「―…っ!」
孝弘は一瞬だけ言葉を飲み込んだが、意を決したように再び俺を真剣な眼差しで見つめてきた。
「昔から……。俺ら仲良かったじゃねーか……」
「ん? ああそうだな」
諦めた感ある孝弘の言い方にほんの少し違和感があり俺は眉をひそめて相槌をうつ。
「……幼稚園の頃からずっと一緒だったじゃん」
「まあ、そうだな」
孝弘に言われて俺は頭ん中で幼少期のころを思い出していた。
「最初は、龍治のこと金ヅルだと思ってたんだけど……」
「……お前、そういう事はっきり言うもんなの?」
孝弘が、俺のことを『金ヅル』って思ってたのは知ってたけど、本人を前にはっきり言ってしまうところが妙におかしくて少し半笑いになってしまった。それに釣られてか、孝弘の顔にも少しばかりの笑顔が戻った。
「まあ小学二年くらいまでは金ズルだと思ってた。……だけどさ」
そこで言葉を切り、俺から地面へと視線を移した孝弘は足元の小石をなんとはなしに蹴った。
俺は転がる小石を目で追い孝弘の次の言葉を待つ。




