27話【龍治】
27話【龍治】
孝弘の家からほんの数十分歩いた先に、俺たちが小学校のころよく遊んだ公園がある。
(あいつは多分ここにいる)
そう確信めいた思いが俺の中にはあった。昔から、孝弘は何かあるとこの公園のブランコに一人で腰掛けていたから。
母ちゃんに叱られたとき。俺とケンカしたとき。
事あるごとに、ぼーっとしてブランコに座っていたな。
公園に着くと思った通り孝弘がブランコにいた。
少しさみしそうな表情に、俺はなんとも言えないため息が出てしまう。それに気がついたのか、孝弘はびっくりしたようにこっちを見てきて、
「りゅう、じ……」
たどたどしく俺の名を呟いた。すぐに視線をそらされて、
「報復しにでもきたのかよ?」
投げやりにそう言う。
(……『報復』ってどこかのヤクザじゃねーんだから)
そんな事を心の中で突っ込んで、俺は孝弘の隣のブランコに腰掛ける。孝弘が、その場から逃げるように立ち上がるのを俺は言葉で止めた。
「なぁ」
「……なんだよ」
少し仏頂面になった孝弘は再びブランコに腰をおろす。
「……お前も、変わってないんだな」
ブランコを少し動かして、孝弘も小学生の頃とあまり変わってなくて俺はホッとしたのと同時に、あの頃とは何か違う変化があったのを感じて不安にもなった。
「なんの話だよ。って言うか、龍治お前俺に報復しにきたんじゃないのかよ」
孝弘は眉間にしわ寄せて一気に言葉をぶつけてくる。
「『報復』ってお前ドラマの見過ぎじゃね?」
何度も『報復』って言ってくる孝弘に俺は呆れ笑い。孝弘を見れば、困惑したような怒ったような表情をしていた。
「たしかに」
言って孝弘は俺から視線をそらし、
「直往を殴った事とかは悪りぃとは思うけど」
孝弘はそこで言葉を切って立ち上がる。
「気にいらねぇんだよ!」
吐き捨てるように言い俺を睨んできた。
(ああ。やっぱりそうだったのか)
俺はこの時納得したようにそう思った。俺が直のほうに行って孝弘と遊ばなくなったのを、孝弘は気に入らなくて直をいじめたんだと、そう思った。でもそれは俺の大きな勘違いだったってのを、俺はこのあと知ることになる――




