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この世で見た彼女の笑顔は  作者: ひゃるる
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2、この世にいた彼女の親友

 校内放送で夏菜の死を告げられてからの記憶は曖昧だった。全校集会で黙祷をした気もするし、校長が何か言っていた気もするし、授業も無くなって帰らされた気もする。気が付いたら自宅の自分の部屋のベッドで寝転がっていた。


  「ご飯できたよー!」


 下の階から母さんの呼び声が聞こえて来る。

 スマホの画面を確認すると、十九時五分の文字が表示されていた。


  「…もうそんな時間か…」


  「碧斗〜?」


  「…今行くー!」


 取り敢えず母さんに返事をして、スマホの通知欄を確認する。もちろん、夏菜からのメッセージは表示されていない。それを確認した俺は、スマホをベッドの上に放り投げ、部屋を出て階段を降り、食卓の席に着く。

 父さんは仕事で遅くなるのだろう。並べられている食事は母さんと俺の二人分だった。


  「…大丈夫?」


  「…何が」


  「……学校、今週はお休みになるらしいよ」


  「…そっか」


 無機質な返事しか出来なかった。

 その後、母さんが何やら話していたようだが、全く頭に入っては来なかった。





 

 夏菜が死んだと知らされてから三日後。

 夏菜の学年の生徒、二年生は夏菜の葬式に参加する事になった。

 重苦しい空気の中、お坊さんのお経だけが式場に響き渡る中、前の方で涙を堪えるながら黙って目を瞑る女性が見えた。俺はその女性に見覚えがある。夏菜の母親だ。隣には夏菜の父親が夏菜の母親を宥める様に寄り添っていた。


  「…ぁ…」


 その時、初めて夏菜が死んだんだという実感が湧いた。

 けど、涙は出なかった。

 何て言っているのかわからないお経を聞きながら、ただ時間が過ぎていくのを感じていた。

 好きだった人、亡くしたというのに、悲しむ事すらなかった。

 俺は自分が思っているより薄情な奴だったのかもしれない。

 だって、最愛の人を亡くしたのに、何も感じなかったのだから。



 2、この世にいた彼女の親友



  あれから五ヶ月ほど経ち、九月になった。

 何ヶ月かすれば気も紛れるだろうと日々を過ごした結果、五ヶ月も経ってしまっていた。前よりかは幾分かマシな心持ちにはなったが、どこか心にポッカリと穴が空いてしまった様な気分だった。

 学校は夏休みも終わり、学年の重苦しい雰囲気はどこかへ消え、いつも通りの学校生活が始まろうとしている。


  「あっつ…」


 夏休みが終わったからと言っても夏が終わったわけではない。放課後のこの時間辺りから強さが増してくる太陽の光が、窓ガラスを貫通して教室内の温度を上げる。


  「少しは自重しろっつの…」


  「お前はだーれに向かって言ってんだよ」


  太陽に意味のない睨みを利かせていると、隣の席から陽気な声が聞こえて来た。

 声の方を見ると、金髪のミディアムヘアの男子生徒が、呆れた様な顔で俺の方を見ていた。


  「…琥斗(こと)か…なんでいるんだよ」


  「いや、ここ学校だし俺の席だからな?!」


  「早く家に帰れよ」


  「お前と違って部活があるんだよ」


  一色琥斗(いっしきこと)。二年に上がってから出来た友達だ。夏菜と俺の関係に、何かと言って来る、少し…いや、かなりうざい奴だ。


  「碧斗はなんでそんなに不機嫌なのさ」


  「お前の金髪が反射して眩しいんだよ。毟って禿げろ」


  「ひでぇな」


 琥斗は夏菜がいなくなっても琥斗は俺に変わらず話しかけてくれていた。うざいが。

 だが正直、コイツのうざさにはかなり救われている。

 傷心中の俺が何事もなく五ヶ月過ごせたのは、琥斗がうざい程に話しかけてくれていたおかげだった。

 鬱屈した心に明るいうざさは染みるのだろう。


  「そういえば碧斗」


  「ん?」


  「他のクラスの女子が廊下でお前を待ってるぞ」


  「……は?誰?」


  「知らねぇけど…夏菜ちゃんとよく一緒にいた様な気がするから、夏菜ちゃんの友達じゃね?」


  「…冬梅(ふゆうめ)か?」


  「取り敢えず、待たせてるから行って来な」


  しっしっ、とあっちに行けとジェスチャーをする琥斗の脳天にチョップをお見舞いしてから廊下に向かうと、そこには見覚えのある女子が立っていた。

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